制作30周年&ネルーダ生誕120年を記念して、不滅の名作が4Kデジタル修復で復活。『イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版』

 1995年度のアカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされた、味わい深い一作が4Kデジタル・リマスター版として日本上映されることになった。まだこの作品をご覧になっていない方も、テーマソングのメロディを聴いたことはあるのではなかろうか。作曲家ルイス・エンリケス・バカロフのメロディが、ふたりの男性の交流をそっと彩る。島の風景も実に美しい。

 物語は実在の詩人、パブロ・ネルーダがチリからナポリの沖合いに浮かぶ小島に亡命してきたことから始まる。このネルーダ、詩人だけあって日常会話も詩のようで、単純に「はい」「いいえ」「楽しい」「いやだ」などの言葉は使わない。何重ものレトリックを使って、時に相当こみいった表現をする。そこに惹かれたとおぼしいのが、マリオという青年だ。彼は貧しい漁師の父親と二人で暮らしながら、世界中から送られてくるネルーダあての郵便を配達している。いいかえればネルーダ専属のポストマンだ。生育環境のためか、教育を充分に受けることができていない状況だったと想像できるが、せっかくの機会だからとネルーダの詩集を読んだところ「開眼」。自分で考える力を飛躍的に伸ばしていく。まさにネルーダは、マリオの心を揺さぶったのだ。

 視野が広がれば、自信も出てくる。マリオには意中の女性もいた。ネルーダはもちろんそれを応援する。と同時に、マリオはもともとポテンシャルを秘めたひとだったのだろう、ますます自身の「社会に対する視座」を明確なものにしていく。このあたりが私にとっては一番の見どころだった。と同時に、出る杭はここまで打ちつくされなければならないのかと、考え込むしかなかった。

 TikTokに慣れっこになったり、「映像の早送り鑑賞」が日常茶飯事になっている人にもぜひ、映画館で体験してほしい。この『イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版』にじっくり見入れば、その先には「早送りからの卒業」「流れる時をいつくしむ喜び」が待っているはずだ。マリオ役は、これが遺作となったマッシモ・トロイージ。ネルーダ役はフィリップ・ノワレ、監督はマイケル・ラドフォード。

映画『イル・ポスティーノ 4Kデジタル・リマスター版』

11月8日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

監督:マイケル・ラドフォード
音楽:ルイス・エンリケス・バカロフ 原作:アントニオ・スカルメタ
出演:マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ、マリア・グラツィア・クチノッタ 他
原題:Il Postino/ 1994年/イタリア・フランス/イタリア語、スペイン語/ビスタ/ステレオ2.0ch/ 109分/
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
セテラ・インターナショナル創立35周年記念作品
(C)R.T.I. S.p.A. – Rome, Italy, Licensed by Variety Distribution S.r.l – Rome, Italy, All Rights reserved.

公式サイト
https://www.ilpostino4k.jp/