伝説の作家、ツヴァイクの遺作を映画化。『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』公開へ

 オーストリアのユダヤ系作家、シュテファン・ツヴァイクのラスト・メッセージと言える作品「チェスの話」が映画化された。邦題は『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』。ヒトラーが大きな顔をする時代に、ユダヤ人としてどう生きてゆくか。知性は暴虐を凌駕することができるのか。大いに引き込まれ、考えさせられる作品であった。

 主人公はヨーゼフ・バルトークなる人物。38年3月、ドイツが武力でオーストリアを併合した時、彼はウィーンで公証人を務めていた。そしてナチスに連行される。「貴族の莫大な資産の預金番号を教えろ」と迫るナチス、しかしバルトークはそれを拒否する。結果としてバルトークはホテルに監禁されるのだが、そうした日々のなか、彼に「生きること」の一条の光を与えたのがチェスのルールブックであった。なぜルールブックを手に入れることができたのかは、ぜひスクリーンをご覧いただけたらと思うが、とにもかくにも、バルトークは癒しを求めるようにチェスにのめりこむ。

 と書いても、「そうしたストーリーで映画になるの?」「マニア向けすぎるのではないか?」という考えも出てきそうだが、巧みな脚本、名優たちの演技、丁寧なカメラ・ワークが、一本の充足感のある、日常に穏やかさを求める誰の心にも触れるであろう内容の映画としてまとめられ、我々の前に差し出されるのだから、心配は無用だ。暗澹たる日々の後、バルトークはロッテルダムで久しぶりに妻と再会し、アメリカへ向かう。なぜ「久しぶりの再会なのか」「なぜ新天地にアメリカを求めたのか」、それらも物語の重要なキーとなる。

 原作者のツヴァイクは1942年のどこかで「チェスの話」を出版し、その年の2月に自死しているので、その後、ヒトラーがどうなったのかも、第二次世界大戦がどうなったのかも知らない。が、この先見性、未来への透徹した目線は何なのだろうと考えると、ふるえが来るほどだった。監督フィリップ・シュテルツェル、主演オリヴァー・マスッチ。7月21日からシネマート新宿ほかで全国公開。

映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』

7月21日(金)シネマート新宿他全国順次ロードショー

出演:オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッへ、ビルギット・ミニヒマイアー
監督:フィリップ・シュテルツェル 原案:シュテファン・ツヴァイク(「チェスの話」) 提供:木下グループ 配給・宣伝:キノフィルムズ
2021/ドイツ/ドイツ語/112分/カラー/5.1ch/シネマスコープ/原題:Schachnovelle/G/字幕翻訳:川岸史
(C)2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

公式サイト
https://royalgame-movie.jp/