谷崎潤一郎といえば『痴人の愛』、『痴人の愛』といえば谷崎潤一郎というところがあるのではないか。なんといってもネーミングが良い。「痴人」と「愛」のマリアージュなど、ふつう考えつかない。ただ、実際にそれを読んだことがある、いま生きている人がどのくらいいるか。私は増村保造監督の映画『痴人の愛』(1967年)は観ていて、ナオミを演じた安田道代の思い切りの良さと、文字通りキリキリ舞いさせられる小沢昭一ふんする譲治に強く引き込まれた。
この2024年版『痴人の愛』は、現代の視点から、メタ的に描かれた、すさまじく斬新な角度からの『痴人の愛』である。ここでの譲治は、「シナリオコンクールでの受賞経験があるものの、フ?ロテ?ヒ?ューにはたどりつけていない脚本家志望の男」。シナリオ講座に通っていて、その仲間とバーに行ったところ、そこで働きながら役者を目指している女性と出会う。これが、「ナオミ」である。講座での成績が優秀だったのか、譲治は講師から「自分の代わりに映画の脚本を書いてみないか」との誘いを受ける。その題材が『痴人の愛』。つまり現代の映画『痴人の愛』の中に、古典的文学作品『痴人の愛』の世界が棲んでいる、というわけだ。
着想の面白みに唸らされ、時がたっても変わらない人間の愛への渇望を痛感させられ、風のように去っていったナオミがどこかで幸せに暮らしていることを願わずにはいられなくなる。原作が書かれたのは今からちょうど100年前の1924年。初めて映画化されたのは1934年のことであるという。とんでもない歳月の流れだが、もう一度繰り返すけれど愛を渇望する人間の気持ちなど1ミリも変わっちゃいないのだろう。
2023年にも谷崎作品『卍』を手掛けた井土紀州が監督し、譲治役を大西信満、ナオミ役を奈月セナが演じる。
映画『痴人の愛』
2024年11月29日(金)より 池袋シネマ・ロサ 他で全国順次公開
出演:大西信満、奈月セナ
監督:井土紀州 脚本:小谷香織 企画:利倉亮、郷龍二 プロデューサー:江尻健司 アシスタントプロデューサー:竹内宏子 撮影:田宮健彦 録音:大塚 学 美術:中谷暢宏 編集:桐畑 寛 助監督:小泉 剛 制作:福島隆弘、洲鎌恒男 ヘアメイク:藤澤真央 スタイリスト:髙地郁美 現場衣裳:藤田賢美 スチール:石井勇気 音楽:高橋宏治 整音:山田幸治 キャスティング協力:関根浩一 営業統括:堤 亜希彦 制作:レジェンド・ピクチャーズ 宣伝:Cinemago 配給:マグネタイズ
2024年/日本/106分/カラー/ステレオ/R-15
(C)2024「痴人の愛」製作委員会