3話で構成されたオムニバス作品。タイトルの『Moirai』とは、人間の運命をつかさどるギリシャ神話の三女神の総称であるという。ここでは二宮健、山西竜矢、荒木伸二の各監督が、実に想像力に訴える物語を紡いでいる。

最初に登場するのは二宮監督の『嗚呼、かくも牧場は緑なりけり』。私は展開に意表を突かれた。純之介とハナは婚約しているのだが、ハナはぜひ一度前の彼氏に純之介を紹介したいのだという。なんだか不思議な気分になりながらハナの育った牧場を訪れた純之介は、やがてロケットという名の元カレを紹介される。が、このロケット、どう見ても馬なのだ。が、時間がたって再びハナと純之介の前に現れたロケットは、単なる馬ではなかった。以降、観る者はなんとも不思議な空間へと案内されてゆく。
山西監督の作品は『母と牛と』。地方都市の母子家庭が主役だ。母は体調を大きく崩していて、息子の介護がないと成り立たない状態。よって息子の時間は「母のための割合」がとても多い。が、ある日、母が倒れていた姿を発見する。これによって息子は「自分自身の時間」を取り戻すのか、それともまだ介護が足りなかったと自分を責めるのか。この息子と自分を重ね合わせて鑑賞する人も多そうだ。
荒木監督の『その誘惑』は、テイストが別人のように変わってしまった夫と、それに気づき、戸惑いながらも、いくばくかの好奇心を持って観察する妻の物語。「知らない一面を知ってゆく不安」と「新しい一面を知った喜び」は、実はメダルの裏表のようなものであることが、視聴しているうちに、私の心にやんわりと入り込んできた。
さまざまな形の男女をテーマにした、しっかりと考えさせてくれる短編集だ。
映画『Moirai』
1月24日(金)より 新宿武蔵野館で2週間限定上映
配給:活弁シネマ倶楽部