トップ女性ニュースキャスターが「恐怖」の淵に沈む。なぜ!?

 今週末より公開される『死を告げる女』は、ホラーとミステリーの要素が、韓国の最先端の空気の中で溶け合った作品という印象を受けた。監督・脚本のチョン・ジヨンはソウル独立映画祭特別賞受賞作品で、ベルリン国際映画祭でも上映された『春に咲く』で評価を決定づけた人物。今回の作品は「端正で知的で美しい――世間からそのような目で見られている女性キャスターの裏の顔を描くと面白いのでは」という発想から始まったという。

 主人公は、傍目にはすべて順風満帆に見えるキャスター。韓国トップのテレビ局で、ゴールデンタイム、夜9時のニュースを担当している。その座を狙っている者は放送局中にいるが、目下、向かうところ敵なし。そんな彼女が、とある1本の不気味な電話を受けたことから、物語は闇いっぱいの色合いを帯びていく。謎の精神科医や、どこかスヴェンガーリ的な魔力を持つ母も、ストーリーの中核に入り込んできて、主人公の心をかき乱す。

 当初こそ私は「誰が悪者なのか」という視点で見ていたが、途中で「これはそんな単純な善悪の物語ではないな」と気づいた。母娘、夫妻、上司と部下、医師と患者、いろんな関係の、細かな“ねじれ”がつぶさに描かれていて、モアレのような効果を生み出す。

 主人公のキャスターに扮するのは『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』で主演女優賞と新人賞を獲り、映画『サニー 永遠の仲間たち』にも登場していたチョン・ウヒ。彼女と母親役のイ・ヘヨンが見苦しいまでにエゴをぶつけ合う場面に、「これぞ人間」という、妙な爽快感を覚えた。12月23日からシネマート新宿ほか全国公開。

映画『死を告げる女』

12月23日(金)シネマート新宿ほか順次公開

監督・脚本:チョン・ジヨン
撮影:カン・ミンウ
編集:チョン・ビョンジン
音楽:チャン・ヨンギュ
製作:シン・ヘヨン、キム・ソンファン
出演:チョン・ウヒ、シン・ハギュン、イ・ヘヨン、チャ・レヒョン、ナム・ムンチョル、パク・ジヒョン
2022年/韓国/111分/カラー/ビスタ/5.1ch/日本語字幕:小西 朋子
英題:THE ANCHOR/配給:クロックワークス
(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

公式サイト
https://klockworx-asia.com/anchor/