大御所監督・根岸吉太郎の新作は、『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』以来16年ぶりとなる脚本家・田中陽造の台本のコラボレーションだ。時代背景は大正時代、テーマは女優・長谷川泰子、詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄の世にも妙なるトライアングル。今から約100年も前に、こんなふうに自在な視点で互いを認め、一方では実にひょうひょうとした、交友の形があったというのが痛快だ。

そしてこの映画で描かれている時代の彼ら――長谷川は現役の頃、無声映画にチョイ役で出ていたとのことだが私には把握できておらず何とも言えないとしても――、中原と小林は、後年にカリスマ的評価を受ける人物像からは程遠い。キャッチコピーにある通り、まさしく「まだ何者でもない」。誰もが手探りで、向こう見ずで、もがきながら何かに必死に手を伸ばしている感じだ。そのまぶしさ、せつなさはおそらく普遍のものであり、ゆえに100年の歳月を飛び越えて、このモチーフは今を生きる者の胸に刺さる。長谷川役は広瀬すず、中原役は木戸大聖、小林役は岡田将生。
映画『ゆきてかへらぬ』
2月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、
田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑
配給:キノフィルムズ
(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会