ピアニストの兄弟姉妹というと、個人的にはレ・フレールの斎藤兄弟、カティア&マリエルのラベック姉妹、バド&リッチーのパウエル兄弟などを思い出すのだが、本作品は「プレネ姉妹」の実話をモチーフにした作品であるという。私は不勉強にして、日本にも来演経験があるという彼女たちの存在を存じあげていなかったが、なんという苦難を乗り越えて演奏への喜びを取り戻したものか、本当に良かった、というしかない。

姉妹を演じるのは、カミーユ・ラザ(Netflixドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」)と、これが映画初出演であるというメラニー・ロベール。プレネ姉妹は、ほんのわずかな技量の違いはあるにせよ、共に大変なクラシック・ピアノのスキルを持っていて、しかも父親は“frustrated musician”だから、俺の分もくれぐれもがんばってくれとばかりに過剰なほどパワフルに娘たちをけしかけている。だが、人間には限界というものがある。過酷な、自身の肉体の限界を超えた鍛錬は確実にダメージを与える。その一因が、遺伝性の疾患であったのだとしたら、果たしてどうなるか。
双生児の役柄だから似せるのは当然だとしても、見る者の理解のためには、それぞれの個性をある程度は押し出す必要がある。その点、この映画の演出は卓抜であるように思えた。姉と妹のキャラが立っており、そのしぐさ、口調のコントラストが、時おり作品のなかで強い印象を放つ。デイミアン・チャゼル監督『セッション』のような圧たっぷりの「音楽根性もの」ではなく、苦みのある恋のシーンもあるし、姉妹のライバル関係を丁寧に描き出しているのもいい。監督はフレデリックとヴァランタンのポティエ親子、プロデューサーには『コーダ あいのうた』『ふたりのマエストロ』などで知られるフィリップ・ルスレが就いている。
映画『デュオ 1/2のピアニスト』
2025年2月28日(金)より、新宿ピカデリー ほか公開
<キャスト>
カミーユ・ラザ、メラニー・ロベール、フランク・デュボスク、イザベル・カレ、エリザ・ダウティ ほか
<スタッフ>
監督:フレデリック・ポティエ & ヴァランタン・ポティエ
製作:フィリップ・ルスレ 撮影監督:ダニー・エルセン 音楽:ダン・レヴィ コンポーザー:ダン・レヴィ 音響:マルク・ドワーヌ 配給:シンカ/フラッグ 提供:フラッグ/シンカ
Prodigieuses(原題)/フランス/シネスコ/フランス語・ドイツ語・英語/DCP/1時間49分/G指定