スタイリッシュ+グロテスク。デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグ監督が8年ぶりにおくる問題作『ポゼッサー』

 閲覧注意というと物騒になるが、ある程度の心の覚悟はいる映画だろう。ジャンルとしてはホラーやSFに属する。血の描写がすごい。しかも“血のり”という感じではなく、いかにも“血”という感じ。授業中、カッターや彫刻刀で間違って指を痛めてしまったときの、あの、血が皮膚に厚く重なっていく感じを個人的には思い出した。CGは一切使われていないという。

 ブランドン・クローネンバーグ監督は、『ヴィデオドローム』『裸のランチ』などを監督したデヴィッド・クローネンバーグの息子。ぼくが『裸~』を見たのは1990年代初頭のことだが、オーネット・コールマンのシュールな音楽が流れるなか、機械が軟体動物のようにのたうちまわっていた図をありありと思い出す。

 本作『ポゼッサー』は、『アンチヴァイラル』から8年ぶりとなるブランドンの長編第2作。サイバー企業が第三者の脳にトランスフォームする“遠隔殺人システム”を創りあげるという発想がまずぶっ飛んでいるし、人格を乗っ取られた男と女性工作員のバトルというべき展開も「なるほど、そう出るか」と好奇心に訴えずにはいられないもの。撮影監督のカリム・ハッセンは、あまりにも残虐だということで発禁処分を受けた『大脳分裂』(ぼくは観たことがない)の監督としても知られているという。

 残虐のプロが職人芸の極みを駆使して作り上げたグロテスク・ニュー・ムービーとの印象を受けたが、観た後、なぜか軽やかな気分になる。下に沈んでいたポップな要素が、ラストになって一気に噴き出してくるといえばいいか。ゆえに、2020年のサンダンス映画祭でワールドプレミア後、シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀監督賞をダブル受賞し、各国の映画祭では39回もノミネートされて15回受賞するという、実に分かりやすい高評価を得たのかもしれない。3月4日よりヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

映画『ポゼッサー』

2022年3月4日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!

監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ
配給:コピアポア・フィルム
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ポゼッサー公式サイト