堤幸彦監督の映画『望み』が、いよいよ10月9日に公開。幸せだった一家が揺れ動く数日の物語。誰に感情移入して観るかで“印象は変わってくる”

 堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶が一家を演じる話題の映画『望み』の封切りが近づいてきた(10月9日より)。原作は、雫井脩介による20万部超えの同名ベストセラー小説。豪華キャスティングに、スリルとサスペンスが加味されて、見る者を引き込む。

 堤幸彦監督の見せ方は空撮も含めてセンセーショナルで、しっかりと驚きも打ち出しつつ、いうまでもなくポップだ。冒頭、岡田健史演じる“規士”が、彼の生きがいのひとつであろうサッカーに打ち込む姿が描かれる。それを携帯で撮影する女子生徒はどうやら彼に好意を抱いているようだ。が、そこで「何か」が起こり、彼は倒れ、女子生徒の携帯はガクリと揺れる。突然のことになかば放心状態になった彼女の声と共に。

 その後の展開には一層はらはらさせられるばかりだが、あるときまでは他者もうらやむ幸せな一家だったに違いない“美しくかっこいい”家族(家はスマートな一戸建て、両親は知的な職業につき、娘は成績優秀、息子はスポーツ万能)が、とある事件にまきこまれたことで、まだ「シロ」とも「クロ」ともつかぬうちからマスコミの攻勢にあい、市民からどんどん嫌がらせを受け(そのなかには「うらやんでいた連中」も相当いたはずだ)、仕事はキャンセルが相次ぎ、針のムシロ状態になっていく。

 家族4人の誰にいちばん心を寄せていくかでも見る印象は変わってくると思う。自分は年齢的にも堤真一演じる“一登”に感情移入してしまうことを避けられなかった。昨日までは評判のいいお父さん、だけどあっという間に「犯罪者(かもしれない少年)の親」とみなされ、世間の風は悪いほうへ悪いほうへと彼に吹きつける。後半、恩人的な存在だったろう老人が彼にとった態度が切ない。おそらくこの老人、ちまたでは虚心坦懐なキャラクターで愛されていて、ずっと一登とは親子のような関係を築いてきたはずなのだ。あまりに率直で無垢がゆえの、言葉の暴力をここにみた。

 家族が揺れ動く、数日間の物語。規士は加害者なのか? それとも犠牲者なのか? 極限状態の中、誰が最後まで100%規士の無実を信じていたかどうか? 

 だがこの劇中、ひとりだけは確実に、本当に一滴の濁りもなく彼はそうではないと見通していた。それが冒頭にあげた同級生の少女である。何度か登場して各シーンを引き締める彼女の存在あってこそ、この映画は『疑惑』や『痛み』ではなく、『望み』なのだ、彼女の存在やマインドこそが、実は最も濃い『望み』なのではなかったかと感じてやまないのは自分だけではない、そんな確信が、観終えた後、強く強く湧いてきた。この役者の名前は松風理咲という。熟達・中堅・気鋭の役者たちのバランスの良さも、作品を魅力あるものにしている。

映画『望み』

10月9日(金) 全国ロードショー

<キャスト>
堤真一 石田ゆり子
岡田健史 清原果耶
加藤雅也 市毛良枝 松田翔太 竜雷太

<スタッフ>
監督:堤幸彦 原作:雫井脩介「望み」(角川文庫刊) 脚本:奥寺佐渡子 音楽:山内達哉 主題歌:森山直太朗「落日」(UNIVERSAL MUSIC)
配給:KADOKAWA
(C)2020「望み」製作委員会

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