1978年制作の映画『天国の日々』が4K化されて、4月4日からヒューマントラスト有楽町ほか全国順次公開中だ。

釈迦に説法かもしれないが、本作にはいくつものエピソードがあり、『天国の日々』もその例にもれない。マジック・アワーと呼ばれる日没間近の柔らかい光の中のロケにこだわった結果、1日の撮影時間はわずか20分間であったときく。これはつまり、画面上は実にスムーズにつながっているパッセージが、実は「数日間にわたるそれを編集した」ものであることを示すのか。ということはまた、役者たちがその前後の時の流れを体感しつつ、それでも「まるで一つの瞬間を流れているかのように」演技していた、ということにもなるか。
予算も日程も超過し、撮影監督ネストール・アルメンドロスは次の仕事との関係上、ハスケル・ウェクスラーにその座を譲り、プロデューサーのバート・シュナイダーは自宅を抵当に入れたという。逆に言えば、そこまで完成させたかった、完成させなければならなかった執念の一作が、この『天国の日々』ということになる。監督・脚本はテレンス・マリック。徹底的にやりつくし、燃えつきたのか、彼はこの後、20年ものあいだ映画を撮らなかった。
物語の舞台は20世紀初頭の、アメリカ・テキサス。リチャード・ギア扮するビルはシカゴでもめごとを起こし、リンダ・マンズ扮する妹のリンダ、ブルック・アダムス扮するビルの恋人アビーとともにテキサスに移る。全米地図でいうと右上から左下方面に向かったわけだ。テキサス州といっても広いけれど、たとえばシカゴからヒューストンまでは約1550km。当時の交通事情を考えると「おそるべき大移動」である。
そしてサム・シェパード扮する地主・チャックのもとで働く。このチャックがアビーに惚れてしまう。重病をわずらっていたとはいえ、チャックは土地の権力者といっていい存在。「よそ者」で権力も持たないビルは、おそらくは安全も考えて、身を引こうと思ったのであろう。このあたりから展開が、ぐっとエモーショナルになっていく。それを彩るのがエンニオ・モリコーネの音楽だが、彼が「映画音楽の押しも押されもせぬ大巨匠」に目されるようになったきっかけのひとつも、『天国の日々』であるはずだ。モリコーネは第33回英国アカデミー賞で作曲賞を受賞するとともに、この作品で初めてのアカデミー賞作曲賞のノミネートも受けた。
映画『天国の日々 4K』
4月4日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督・脚本:テレンス・マリック
製作:バート・シュナイダー ハロルド・シュナイダー
撮影:ネストール・アルメンドロス ハスケル・ウェクスラー
美術:ジャック・フィクス 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:リチャード・ギア ブルック・アダムス リンダ・マンズ サム・シェパード ロバート・J・ウィルク ステュアート・マーゴリン
1978年|94分|アメリカ|原題:Days of heaven|カラー|5.1ch|1.85:1 配給:アンプラグド
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