2004年ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された1作。つまり製作から約20年を経てついに日本で劇場公開されるわけだが、なんというか、非常に「今」な作品である、というのが第一印象だ。そしてその第一印象の何割かは、とある日本の芸能界の事件を思い起こさせた。

1981年夏、カンザス州の田舎町ハッチンソンで起きた出来事がストーリーの核となる。野球好きな小学生の男児の人生を、ひとりのコーチが狂わせた。そのコーチはなるほど指導者としては有能なのかもしれないが、野球に打ち込む少年の姿に胸がときめいたり、好みの容姿の少年たちを厳選してチームを練り上げていきたい、家に呼んで少年たちを自分の好きにしたいという気持ちもあったはずだ。「指導」という言葉の先にあるものは、コーチ視点では「スキンシップ」、少年視点ではおおよその場合「性加害」となろうか。なぜ「おおよそ」という言葉を使ったのかというと、この映画の主人公であるふたり、ブライアンとニールはコーチに対してある意味、対照的ともいえる思いを抱くからだ。
ブライアンは果てしなく精神的なショックを受けた。だがニールはコーチと自分の間にあったのは、あくまでも「愛」なのだと信じ込む。それでも生きようというそれぞれの意志のあらわれでもあるのだろう、ブライアンは「宇宙人に誘拐された」と記憶を書き換え、ニールは売春少年として、日々を過ごす。
物語はさらに進み、ふたりは出会うことになるのだが、このあたりの展開、そして結末への流れは「映画のダイナミズム」そのものだ。監督はグレッグ・アラキ、原作はスコット・ハイムが1995年に発表した小説『謎めいた肌』(実体験に基づく)。出演はジョセフ・ゴードン=レヴィット、ブラディ・コーベット、ほかミシェル・トラクテンバーグ、メアリー・リン・ライスカブ、エリザベス・シュー等。オリジナル劇伴をハロルド・バッドとロビン・ガスリーが手掛け、シガー・ロスなどの楽曲が挿入されているあたりも「センスが鋭い」としかいいようがない。
映画『ミステリアス・スキン』
2025年4月25日(金)より 渋谷ホワイトシネクイント ほか全国ロードショー
出演:ブラディ・コーベット ジョセフ・ゴードン=レヴィット ミシェル・トラクテンバーグ ジェフリー・リコン ビル・セイジ メアリー・リン・ライスカブ エリザベス・シュー
監督・脚本:グレッグ・アラキ
原作:スコット・ハイム『謎めいた肌』(ハーパーBOOKS/仔犬養ジン訳)
製作総指揮:マイケル・J・ワーナー、ヴァウター・バレンドレクト/製作:メアリー・ジェーン・スカルスキー、ジェフリー・レヴィ=ヒント、グレッグ・アラキ/撮影:スティーヴ・ゲイナー(ASC)/プロダクションデザイン:デヴォラ・ハーバート/衣装デザイン:アリックス・へスター/音楽:ハロルド・バッド&ロビン・ガスリー/音楽監修:ハワード・パー/製作会社:アンチドート・フィルムズ、デスパレート・ピクチャーズ
2004年|105分|アメリカ|英語|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:Mysterious Skin|字幕翻訳:安本熙生|R15+
配給・宣伝:SUNDAE
(C)MMIV Mysterious Films, LLC