モノクロ映像による重厚な一作。監督・脚本のマグヌス・フォン・ホーン、撮影のミハウ・ディメク、美術のヤグナ・ドベシュの誰もが強い美意識を持っているのだろう、と、画面にひたすら浸った。

時代背景は第一次世界大戦後のコペンハーゲン。主人公のカロリーネ(ヴィクトーリア・カーメン・ソネ)は「お針子」としてわずかな賃金を得て毎日をギリギリの状態で暮らしていた。そのうち勤め先の工場長と交際し、妊娠もするのだが、結果的には捨てられて、仕事もクビになる。外面、親との関係、社会的地位を選んだ男のせこさ全開だ。
「未婚の母」となったカロリーネだが、子供にはいのちの権利がある。だが育てていける余裕はとてもない。「里親探し」をしていた彼女のもとに飛び込んできたのは、養子縁組あっせん所の情報だった。そこに行ってみるとおだやかな老女性ダウマ(トリーネ・デュアホルム)がいて、里親になるのは医者とか弁護士とかそういう地位にあるひとだと説明するので、彼女は実の子の未来が良いものになればと老女性にお金を払ってあっせんを頼んだ。よほどダウマは豊かなコネクションを持っているのか、翌日カロリーナがそこを再訪すると、彼女の子はすぐに里親が見つかって引き取られたという――。
が、里親うんぬんの話は「全部ウソだった」。「子供を里親に出すために、ダウマに渡された謝礼」はそのままその老女の収入となり、子供は、里親はおろかミルクひとつ与えられず窒息死させられたり下水に捨てられる。気分が悪いのでこの先は書かないが、背筋が凍るのはこれが実話に基づくストーリーである、ということ。シリアルキラーの一覧などには必ず載っている事柄だと思うので各自お調べいただきたいが、とにかくカロリーネの疑問とそれを突き詰めていくための行動、勇気ある告発が、ダウマの殺人を暴き、子供に関するデンマークの法律を変えることになったのだ。
そして私が思い出したのが日本の「寿産院」事件である。こちらはデンマークのこれよりも30年後の話だが、「戦争後のむごたらしい事件」ということでは共通する。まったく戦争というものは……。
映画『ガール・ウィズ・ニードル』
5月16日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開
監督・脚本:マグヌス・フォン・ホーン 撮影:ミハウ・ディメク 美術:ヤグナ・ドベシュ 編集:アグニェシュカ・グリンスカ 音楽:フレゼレケ・ホフマイア 音響:オスカ・スクリーヴァ
出演:ヴィク(or ヴィクトーリア)・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリ
2024年/デンマーク、ポーランド、スウェーデン/デンマーク語/123分/ 1.44:1/モノクロ/5.1ch/PG‐12/原題:Pigen med nalen/英題:The Girl with the Needle/日本語字幕:吉川美奈子/字幕監修:村井誠人/配給:トランスフォーマー
(C) NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024