『Sew Torn』という原題がこんなに素敵な邦題になるとは。内容はまさにこの邦題そのものなのだが、かといってこの言葉におさまるものではない激しさも溢れるほどあり、なんというのだろう、「お針子」という、一見おだやかで平和そうな職業が、こんなにアグレッシヴな瞬間にさらされることがあるのだということを記した意味でも、この映画の存在意義はある。そして、この、お針子が、麻薬・拳銃・大金・血まみれの男が散らばる現場にたまたま遭遇してしまったせいで、その後の人生のベクトルを大きく狂わせるあたりもガッチリ描かれている。目撃しなれば、スイスの小さな町で、こぢんまりとお針子生活を続けているはずだったのに。

「ネコババ」「通報」「スルー」のどれを彼女が選んだかは見てのお楽しみだが、なんだかんだいって、その「職」が、それからの彼女の生命を救った。裁縫道具が凶器と化していく辺り、『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』の登場人物である通称・リリアンの由真を思い出す鑑賞者もいるのではなかろうか。
主人公のバーバラが演じるイヴ・コノリーの表情がどんどん変化していくあたりも見逃せないし、空間に対する糸や針の用い方が非常に「数学的」「物理的」であるとも私は感じ、さぞバーバラの学生時代は成績優秀だったのだろうと勝手に想像した。監督は2000年生まれの気鋭、フレディ・マクドナルド。出演はバーバラ役がイヴ・コノリー、ほかカルム・ワーシー、ジョン・リンチほか。
映画『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
12月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
監督:フレディ・マクドナルド 脚本:フレディ・マクドナルド、フレッド・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー、カルム・ワーシー、ジョン・リンチ、K・カラン、ロン・クック、トーマス・ダグラス、ヴェルナー・ビールマイアー、キャロライン・グッドオール
提供:キングレコード、シンカ 配給:シンカ 宣伝:プレイタイム
2024/アメリカ・スイス/英語/100分/カラー/シネスコ/ 5.1ch/原題:Sew Torn/字幕翻訳:高橋彩
(C) Sew Torn, LLC