愛するけど、愛されないすれ違い女子を熱演した「辻千恵」。その魅力が開花した、長編初主演作『男の優しさは全部下心なんですって』

 ここまで“すれ違い”を満喫させてくれる作品も少ないのではないか。考えようによってはけっこうヘヴィーな展開もあるのだが、色調やアングルも含めて撮り方がとてもポップなためか、ぜんぜんウジウジした感じがしない。いろんな種類のおいしいスナック菓子を次から次へと口に運んでいるような気持になる。時間が70数分とタイトなのもテンポ感のよさにつながっているはずだ。

 音楽×映画の祭典“MOOSIC LAB(ムージック・ラボ)”から生まれた『男の優しさは全部下心なんですって』(緊急事態宣言の発令に伴って公開延期中)。監督・脚本・編集は、『からっぽ』でPFFアワード2018のホリプロ・エンタテインメント賞を受賞した、のむらなお。音楽はDJ 後藤まりこが、ヒップホップ風なのからフォーキーなものからジャズ風のものまで幅広くぶちこんでいる。

 ところで“MOOSIC LAB(ムージック・ラボ)”といえば、あの、森川葵がひたすら素晴らしかった『おんなのこきらい』という名作もあった。あれも決してストレートな恋愛ものとはいえなかったが、まあ、最小の手間で何事もバシッと決まってゆく恋なんて万に一つもないだろう。恋にまつわる、ずれ、ねじれ、摩擦をいかに表現するかが、映画人としてのセンスのみせどころなのだ。

 辻千恵ふんするヒロイン・みこは、遊園地の跡地にできたショッピングモールで数時間に一度動くメリーゴーランドの受付をし、別の時間は着ぐるみを着てチラシを配っている。男性と出会う機会は多いし、基本的にみんな優しい。よって、みこもその男性を全力で愛していく体制に入るのだが、そうなるとどういうわけか、相手に彼女がいたりなど、なかなかすんなりとはいかない流れになっていく。でも、みこは、なんとなく達観したところがあり、向こうの女性も当初は「なにこの泥棒猫」的な視線で射貫くのだが、結果的になんだか周りから許されてしまうのだ。

 そのキャラクターに、辻千恵をキャスティングした視点は鋭すぎると思う。モデルとして活動する彼女はこれが長編映画初主演とのことだが、この一本を見終わることには誰もが辻千恵に惹かれてしまう予感がする。そのくらい魅力的に撮れている。この作品でMOOSIC LAB 2019女優賞を受賞したのも納得だ。

 MOOSIC LAB 2019では、全6回の上映がすべてSOLD OUTになったという。今回は再編集を施した新バージョン・完全版としての上映となる。辻千恵のまっすぐさ、すがすがしさ、そこに原田大二郎の円熟、水石亜飛夢のうつろいなどが絡んでいく。上田操の登場場面にも注目されたい。

映画『男の優しさは全部下心なんですって』

新宿シネマカリテ ほか近日公開!

<キャスト>
辻千恵 水石亜飛夢 森蔭晨之介 五味未知子 田中俊介 田中真琴 こだまたいち 安倍乙 木口健太 上田操 加藤才紀子 / 原田大二郎

<スタッフ>
監督・脚本・編集:のむらなお 音楽・劇中歌:DJ後藤まりこ 撮影:早坂伸(JSC) 録音・整音:柳田耕佑 着ぐるみデザイン・制作:なみちえ ヘアメイク:田口彩華 衣装:杉本仁紀 スチール:福田啓道、みてぃふぉ 美術・小道具制作:門田亜里砂 制作担当:稲垣亮太 助監督:竹内亜蘭、門田亜里砂 グレーディング:有賀遼 企画・配給:絶好調ちっちゃいもの倶楽部 配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS 宣伝協力:MAP
カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|72min
(C)2021 Z.S.G.K

公式HP  https://otokonoyasashisa.com/

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