9月23日からアンドリュー・レヴィタス監督作品『MINAMATA―ミナマタ―』が上映されている。水俣病の惨状を世界に伝えた写真家、W・ユージーン・スミスの物語で、ジョニー・デップがスミス役を演じているのも話題だ。
このユージーン・スミスはまた、大変なジャズ・ファンであり、録音マニアでもあった。そちらの面を捉えたのが、10月15日よりBunkamuraル・シネマ他にて全国順次ロードショーされる『Jazz Loft ジャズ・ロフト』(監督;サラ・フィシュコ)である。
“ロフト”とは、この場合、小汚いアパートメントといったほうがいいか。日本のおしゃれなそれを思い浮かべると違いに愕然とするだろう。1950年代後半から60年代前半にかけて、ニューヨーク・マンハッタンの6番街821番地にあるロフトに、ジャズ・クラブやコンサートでの演奏を終えたミュージシャンが集まってきて、夜通し、自分たちの喜びのためにセッションを行なった。スミスは録音や撮影で参加し、その模様をいくつものテープやフィルムに刻んだ。
スミスがサックス奏者ズート・シムズのファンであったこと、ピアノ奏者ホール・オーヴァトンの親友であったこと、そのオーヴァトンとセロニアス・モンクの交友から1959年2月に行なわれたモンクの歴史的「タウン・ホール・コンサート」のリハーサルがスミスのロフトで行なわれるようになったことなど、ジャズ好きなら身を乗り出さずにはいられない画像、映像、音楽、証言がテンポよく続く。
このコンサートに参加したフィル・ウッズ、ボブ・ノーザンの発言も貴重だ。なぜなら彼らは撮影後、ほどなくして他界しているからだ。10代でジャズ界にデビューしてロフトに寝泊まりするようになったドラム奏者ロニー・フリー(当時を知る数少ない生き残りのひとり)の証言もやけに生々しい。当時のジャズ~アート界に、いかにドラッグがはびこっていたかもわかる。
ジョニー・デップを通じてスミスを知ったファンにも、写真家スミスのファンにもぜひ見てほしいし、50年代のニューヨークの、あのなんともいえないデカダンな雰囲気に惹かれている人ならいうまでもなく必見の一作だろう。多方面の観客にアクセス可能な一作という印象を受けた。
映画『Jazz Loft ジャズ・ロフト』
10月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ 他 全国順次公開
<出演>
サム・スティーブンソン、カーラ・ブレイ、スティーヴ・ライヒ、ビル・クロウ、デイヴィッド・アムラム、ジェイソン・モラン、ビル・ピアース
(以下、写真/声のみ)セロニアス・モンク、ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン
プロデューサー:カルヴィン・スキャッグス、サム・スティーブンソン
編集:ジョナサン・J・ジョンソン
撮影:トム・ハーウィッツ
録音:ピーター・ミラー
脚本・プロデューサー・監督:サラ・フィシュコ
配給・宣伝:マーメイドフィルム コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
原題:The Jazz Loft According to W. Eugene Smith
2015年│89分│イギリス│英語│B&W、カラー│ヴィスタサイズ│5.1ch