鬼才ジャズ・ピアニスト/作曲家「セロニアス・モンク」を、ジャズ・クラブ、録音スタジオ、海外ツアーで捉えた2作品を同時上映

 2022年、セロニアス・モンクは没後40年を迎える。(当時:1982年は)自分のなかでは江利チエミの死去、ホテルニュージャパン火災とセットで捉えられているのだが、ファンのひとりとして「いくらなんでも“沈黙期間”が長すぎる、いつか復活するはずだ」、「前年(1981年)にはマイルス・デイヴィスがカムバックしているのであるから、今度はモンクの番だろう」とはうっすら考えていて、いささかの希望は持っていた。それだけに亡くなったのは残念だった、というか個人的に悔しかった。「演奏どころではない、とんでもない重篤だった」と知ったのは、『For The Love Of Monk』というCDに息子のT.S.モンクが寄せたエッセイを読んでからだ。

 『セロニアス・モンクの世界』」として同時上映される2作品は、1967年のモンクを捉えた映像だ(監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド)。クリント・イーストウッド監督のドキュメンタリー映画『ストレート・ノー・チェイサー』(1988)に挿入されていた場面の、全長版といってもいいだろう。

 『MONK モンク』は、現在も営業するニューヨークの名門ジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのステージと、今は亡きコロンビア・レコード・スタジオでのアルバム『アンダーグラウンド』収録風景がメイン。当時の「ヴァンガード」が食事も出していて、喫煙OKだったこともわかる。どう見ても、楽屋にいるアゴ髭の男はボビー・ティモンズ、白いシャツの男はハンク・モブレーだ。モンクと対バンだったのだろうか?

 その『アンダーグラウンド』は、この時代のモンク(旧作の再演を繰り返していた)にしては珍しく、4曲の新曲を含むアルバム。プロデューサーは画面にも登場するテオ・マセロ(ネクタイの人物)、モンクに再び曲作りの意欲を湧かせるのは並大抵の労苦ではなかったはずだ。テオとモンクの会話中、「ア・メリーアー・クリスマス」の話題が出てくる。これは2000年代だったか、たしか“モンク自身の演奏では残っていない、モンク作の未発表曲”として、ピアニストのベニー・グリーンがレコーディングした。が、少なくとも、『アンダーグラウンド』の録音時には、実際に演奏されたかどうかはともかく、譜面もできていて、収録も検討されていたのだろう、ということが見えてきた。

 『モンク・イン・ヨーロッパ』は1967年のヨーロッパ・ツアー道中記というべき内容。モンクは57年から自身のピアノに加え、次世代のサックス、ベース、ドラム各奏者との4人組でレギュラー・バンドを組んでいて、58年秋からはずっとチャーリー・ラウズという奏者がサックスを吹いていた。が、誰であろうが10年近くも同じようなメンバーでおなじみの曲を演奏していれば新鮮味には欠ける。そこで興業主のジョージ・ウィーンは案を練り、67年夏の「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」(アメリカ)では同世代のトランペットやヴィブラフォン奏者を含むベテラン・オールスター・バンドのピアニストにモンクを招いた。この好評が秋のヨーロッパ・ツアーにつながったと私は考える。

 が、今回はモンクが明確なリーダーだ。結果、当時のモンク・バンド(ラウズ入り)に、数名の管楽器奏者(一部はヨーロッパ在住のアメリカ人)が加わるという顔合わせになった。モンクはリハーサルには来ない(のが普通らしい)ので、ラウズが他のメンバーに一所懸命説明し、アンサンブルをまとめあげていく。

 モンクだけを目当てに見に行ったとしても、チャーリー・ラウズの献身に目を奪われること間違いなしの2作品といえよう。そしてこの機会に、録音も素晴らしい『Yeah!』、円熟を刻み込んだ『Moment’s Notice』、『Soulmates』など、モンクから離れて残したラウズの傑作群にも耳を傾けていただければ幸いだ。

『没後40年 セロニアス・モンクの世界』

2022年1月14日より、ヒューマントラストシネマ渋谷で上映

『MONK モンク』
監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド
出演:セロニアス・モンク(ピアノ)、チャーリー・ラウズ(テナー・サックス)、ラリー・ゲイルズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラムス)、パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター
1968年│58分│アメリカ│B&W│スタンダード│モノラル│

『モンク・イン・ヨーロッパ MONK IN EUROPE』
監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド
出演:セロニアス・モンク(ピアノ)、レイ・コープランド(トランペット)、クラーク・テリー(トランペット)、フィル・ウッズ(アルト・サックス)、 ジョニー・グリフィン(テナー・サックス)、チャーリー・ラウズ(テナー・サックス)、ジミー・クリーヴランド(トロンボーン)、ラリー・ゲイルズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラムス)、ネリー・モンク
1968年│59分│アメリカ│B&W│スタンダード│モノラル

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