ロックの名盤『チープ・スリル』のジャケットを描いた“アメリカン・ポップ・カルチャーの鬼才”、その赤裸々な半生記を描いた『クラム』がいよいよ公開

 鬼才漫画家・イラストレーター、ロバート・クラムの半生に迫るドキュメンタリー『クラム』が2月18日から新宿シネマカリテほか全国順次公開される。制作は1994年、監督はテリー・ツワイゴフ。95年のサンダンス映画祭グランプリ(ドキュメンタリー部門)など数々の映画賞にも輝く、いまや古典的ともいえる作品だ。日本では約25年ぶりの公開になるという。

 ぼくは10代の頃、ジャニス・ジョプリンが参加していることで有名なアルバム『チープ・スリル』のジャケットで、初めてクラムの絵を見て(日本の漫画とは明らかに異なるタッチに、これがアメリカン・コミックなのか! と衝撃を受けた)、その後、クラムが担当したYazooレーベルの戦前ブルースやジャズのジャケットに接し、“彼はいつもニコニコしてジャズやブルースやロックを聴いているんだろうな”とハッピーなキャラクターを勝手に思い浮かべたものだ。

 つまり、そのくらい自分はロバート・クラムに関して無知だったということだ。

 この映画で描かれるクラムは、辛辣で邪悪だ。薬物のことも独特の性的嗜好を持っていることも、なんとも表現しがたい、だが相当に宗教的な家庭環境で兄弟や妹ふたり(末妹は取材拒否)と共に育ったことも描かれている。「ロックは嫌いだ」と言い放ち、自分の漫画に出る人気キャラクターでも飽きがくれば容赦なく殺す。大ロング・セラー盤『チープ・スリル』のギャラ受け取りに関する話も「えっ?」と聞き返したくなるほど悲しいものだ。

 絵の才能、音楽への愛情を持ち合わせていなかったら、夫人や子供に恵まれなかったら、いったいロバート・クラムはどうなっていたのだろう? もうエンディングという頃、映画の中で取材を受けていた兄弟のその後についても触れられているが、“ああやっぱり”だ。

 主な音楽はピアニストのデヴィッド・ボーディンハウスが担当。ルイ・アームストロングのバンドの最後のクラリネット奏者ジョー・マレイニらと共演したこともある彼の音作りが、映画をダークネスから、いささか救う。ほか、キング・オリヴァー(アームストロングの師で1904年からプロ活動)の演奏も使用されている。

映画『クラム/CRUMB』

2月18日(金) 新宿シネマカリテ ほか全国順次公開

出演:ロバート・クラム、チャールズ・クラム、マクソン・クラム、アリーン・コミンスキ
監督:テリー・ツワイゴフ プロデューサー:リン・オドネル 共同プロデューサー:ニール・ハルフォン エグゼクティブ・プロデューサー:ローレンス・ウィルキンソン、アルバート・バーガー、リアンヌ・ハルフォン 撮影:マリーズ・アルベルティ 録音:スコット・ブラインデル 編集:ヴィクター・リヴィングストン 音楽:デイヴィッド・ボーディングハウス
1994年|アメリカ|カラー|スタンダード|モノラル|120分
(C)1994 Crumb PartnersⅠALL RIGHTS RESERVED

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