なぜ、フィリピンの貧困地区で生きるのか? 7年にわたってその姿を追い続けたドキュメンタリー『なれのはて』が公開

 舞台はフィリピンの貧困地区、フィーチャーされるのは撮影当時50代後半から60代前半に達した4人の男たち。監督・撮影・編集をこなした粂田剛はフリーの助監督として原将人や矢崎仁司らの作品に関わり、教育映像やテレビ番組のディレクターとしても活動を続けてきた。映画撮影のために2012年から19年にかけて20回ほどフィリピンを訪れ、4人の男たちの日常を捉えながら、「なぜ日本の生活を捨てて、フィリピンの貧困地区に住むようになったのか」、「なぜフィリピン人は、困窮した日本人を助けるのか」、等へと迫ってゆく。

 男たちは、元警察官、元証券会社勤務、元暴力団構成員、元トラック運転手と、さまざまだ。粂田剛は絶妙な距離をとりながら彼らから話を聞きだし、同時に、街角、雑踏、人々、建物の水回りなどもしっかり収め、匂いが漂ってきそうな画面を届ける。毎日、ギリギリ、カツカツの人々たち。だけど「今のほうが幸せだ」という発言も登場する。日本のほうがはるかに整理され、水道水だって飲めるし、日本語が通じるのに、それでも貧困地区のカオスを愛する日本人がいる。それは本音なのか、それとも日本へ帰り難いためのエクスキューズなのか、映画はそのあたりも鋭く掘り下げる。

 個人的にはラスト近く、元トラック運転手のSNSチャットの場面に「ああ、よかったなあ」と胸をなでおろした。チューバ奏者の高岡大祐が担当した音楽も、なんともいえず土臭く、効果的だ。

映画『なれのはて』

2021年12月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!

監督:粂田剛
音楽:高岡大祐
調音:浦田和治
配給:ブライトホース・フィルム
(C)有象無象プロダクション

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