おとなの恋愛風味たっぷりの、スマートに展開するコメディ『プレゼント・ラフター』。英国の偉才N・カワードの古典的作品に、名優ケヴィン・クラインが取り組む

 個人的に最も楽しみにしている上映プロジェクトの一つが「松竹ブロードウェイシネマ」である。なぜなら、日本の映画館にいながらにして、ニューヨーク・ブロードウェイの舞台を楽しむことができるからだ。もちろん現地に足を運んで、入口で必ずもらえる「Playbill」でキャストや演奏家を確認しつつ、ナマの空気を味わうのも貴重な経験になる。が、ぼくは時おり、むしょうに悔しくなったことを告白しなければならない。みんながウケているジョークの意味がわからず、セリフが韻を踏んでいることはわかっても何を意味しているかまでは捉えられない。まわりが爆笑したりオーイエーとか言っている中、ひとり「?」印で座っているのはなかなかの疎外感である。

 が、「松竹ブロードウェイシネマ」は字幕が完備されているし、ずっと同じ席に座っていては体験することのできないアングルの迫りや引きも味わえる。これが実にいい。

 そのプロジェクトの最新作が、3月11日から全国順次公開される『プレゼント・ラフター』である。英国の超大物で脚本家・俳優・作曲家など多彩な顔を持つサー・ノエル・カワードが原作を書いた。ぼくは彼をまずスタンダード・ナンバーのソングライターとして認識していた。若き日のカーメン・マクレイが彼の楽曲を集めて歌った『マッド・アバウト・ア・マン』というアルバムも忘れがたいが、自分がカワードの劇作に接するのは今回が初めてだ。

 舞台は1900年代のロンドン。主人公は、ベテランの域に達した人気俳優である。テレビはおろか映画もない時代、つまり彼は舞台でのスターなのだ。が、もう演じるのは疲れてしまい、本当の自分がどんな人間だったのかも忘れがちになる。俺は何者なんだ、俺が好きなのは誰なんだ、役柄ではない俺はどの俺なんだ。

 主演は3度のトニー賞、ほかアカデミー助演男優賞に輝くケヴィン・クライン。『アベンジャーズ』シリーズにも登場するコビー・スマルダーズも快演を繰り広げ、「120年前の外国の物語であっても、人間の思うことなんてけっこう一緒なんだな」と思いながら、ぼくはこの長編を楽しんだ。おとなの恋愛風味もたっぷりの、スマートに展開するコメディである。

 ブロードウェイのほか、英国ウエストエンドの香りも感じられる一作。現代最高峰のジャズ・クラリネット奏者、ドン・バイロンが演奏する「セントルイス・ブルース」が流れるラスト部分にも、耳をそばだててしまった。

「プレゼント・ラフター」

2022年3月11日(金)から東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか全国順次限定公開

配給:松竹
(C)Sara Krulwich

松竹ブロードウェイシネマ 公式