映画『頭痛が痛い』が公開。初日舞台挨拶で、主人公のように“死にたい”を抱える人へ熱いメッセージ!

 PFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した、それぞれの「死にたさ」を擦り合わせようとする少女2人のシスターフッドロードムービー『頭痛が痛い』の初日舞台挨拶が、6月3日(金)にアップリンク吉祥寺にて開催された。

 本作の制作のきっかけについて監督は、「2018年に奈良県の女子高生がライブ配信中に線路に飛び降りるということがありまして、その後その瞬間の映像とか過去の配信動画がネット上に拡散されてお祭り騒ぎのようになっていて、僕はそれを携帯越しに眺めることしかできなかったし、その時期ちょうど自分の中にあった憂鬱みたいなものとリンクした瞬間があって、『これを今映画にしなければ、10年後の自分が撮れるかわからない』ということで、製作しました」と説明。

 オーデションでお二人をキャスティングした理由については、「オーディションにいらっしゃった方全員に『死にたいと思ったことありますか?』という質問をさせていただいたんですけれど、涙ながらに過去を語る人とか、『ないです』ってきっぱり断言する人がいる中で、阿部さんは『皆あるんじゃないですかねぇ?』とはぐらかすような、自分を当事者から外すような受け答え方で、そこにすごく惹かれてオファーさせていただきました。せとらさんは、入ってきた瞬間に、映画のオーディションに来るような格好ではないなというような格好で、スケスケのシャツにヒョウ柄のパンツを履いてきて、挙動不審だし、あからさまに緊張していました。せとらさんが持っている不器用さが、鳴海役に活きるんじゃないかなと思って選ばせていただきました」と話した。

 阿部は、演じたいく役に関して、「当時の方が共感するところがありました。当時はいくと重なって、自分が苦しいこととか嫌だなと思うことを表に出さないで、何でも『うん、大丈夫だよ』と言って自分自身の首を締めていたんで、いくについて、苦しそうだな~と思いました。」と述懐。

 せとらは演じた鳴海役について、「不器用で挙動不審なところとか、やさぐれていて、劇中タバコを吸ったりお酒を飲んだりしているシーンもあるんですけど、繊細で傷つきやすいところだとかは自分と被っているなと思いました」と話した。

 撮影時のエピソードとして阿部は「いくが初めて援助交際をするシーンで、相手役の松本高士さんはものすごくいい方なんですけれど、松本さんと事前に演技を合わせずに本番に挑んだら、ものすごいボルテージを上げていらっしゃって、タバコを近づけてくるだとか台本にないようなこともあったり、怒鳴り声もものすごく大きくて、素のリアクションでびくっとしました」と回想。監督も、「そのシーンは、『このセリフだけは言ってください』ということだけ決めて、即興も多くて、僕自身どうなるかわからないまま観察していたという感じなんですけれど、松本さんがいくに対して乱暴を振るうところで、僕も自然と声が出ちゃっていて、自分は気付かずにOKを出しちゃったんですけれど、録音部から『監督めっちゃ声が出てたよ』と言われてNGを出してしまいました」と現場の様子が伝わるようなエピソードを披露した。

 せとらは、ライブ配信をするシーンについて、「スタッフさんがライブ配信中に表示されるコメントをリアルタイムで打っていたんですけれど、守田監督は、2台持ちにして打っていてすごくシュールな環境でした。」と述懐。監督は、「コメントは絶対自分の間で打ちたいというのがあり、僕はコメントを打つのに必死だったんで、あそこはお芝居を生で見ていなかったんです」とこだわりを見せた。

 本作は、ぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した。監督は、「ちゃんと格がついたことで、スタッフの皆とか俳優の方々とかのためにもなるし、後から後から嬉しく感じてきました」と当時の心境を話した。再編集版制作の経緯については、「PFFの上映を経て、再上映したいと考えていた時に、当時高校を卒業したての子(小本菜々香)が現れました。最初に150分くらいの素材を渡して、『これを切ってきて(編集して)』と言ったら、90分にしてきて、肝が座っていると思って、いくと鳴海の役にも年齢も近いので、彼女に頼みました」と語った。

 最後に阿部から「今日2年ぶりに拝見して、まだずーんと心に残っているものがあります。彼女たちの生き様は本当に泥臭いなと思いながらも美しいところもあって、その気持ちを若干忘れていたなとも思いました。苦しいなと思った時や抜け出したいなと思った時は、いくと鳴海を思い出してもうひと頑張りしてみようかなと思うので、皆さんもどこかでいくと鳴海を思い出していただければ嬉しいです」と挨拶。

 せとらは、「自分の中に価値がないと思っていたりとか、誰からも愛されていないと思っていたりとか、毎日を死にたいで紡いでいる人がいると思うんですね。でもそれでも私はどんな人にも生きていて欲しいと思うんです。こんな見ず知らずの奴に言われても何も届かないかもしれないけれど、それでも生きてて欲しくて。こんなんでも30年間生きてきました。絶対になるようになるし、なるようにしかならないから大丈夫で、正しくなくても根拠がなくても大丈夫で、もしかしたら死にたいとか日々抱えて生きている人もいるかもしれないけれど、そう思っている自分を愛してあげて欲しいです。死にたいと思うくらい頑張ってきた自分を信じて愛してあげてほしいと思います。」と熱いメッセージを送り、初日舞台挨拶は終了した。

映画『頭痛が痛い』

【イントロダクション】
自傷行為や恋愛感情のないセックスを繰り返し、家庭に不和を抱える不登校気味の高校生・鳴海と、エゴだとわかりつついつも人のことを考え、救急セットを持ち歩く同級生・いく。二人は、いくが鳴海のライブ配信を見るという一方通行の関係だったが、いくが梶井基次郎の『檸檬』のように、自分の遺書を赤の他人の家に投函するところを鳴海が目撃し、互いの心と傷の手当てをし、支え合う関係に発展していく。

監督は、第28回新人シナリオコンクールに『幸福なLINE』に佳作1位に入選した守田悠人。本作は初監督作品となり、映画監督の登竜門であるぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した。審査講評では、画家・平松麻に「守田監督はいつもいくと鳴海の横にいるように私には見えました。ひとのいたみを分かったつもりでやり過ごしてしまう危うさに守田監督は向き合っていたのだと思います。」と評された。

いく役を、本作で映画デビューの阿部百衣子、鳴海役をフリーランスのモデル・俳優のせとらえと。いくの遺書を読み、正義感に突き動かされるフリージャーナリスト・直樹役を、『JOINT』の鐘ヶ江佳太。他、山本華世子、杉山宗賢、大友久志、ナツメが脇を固める。

【あらすじ】
東京五輪に向けた新国立競技場の建設が進む2018年の東京。不登校気味の高校生・鳴海(せとらえと)はライブ配信を行うことにより、行き場の無さを埋めようとする。鳴海の同級生・いく(阿部百衣子)はいつも明るく振る舞う反面、形容しがたい憂鬱な気持ちを吐き出せずにいた。ある日いくは、梶井基次郎の『檸檬』のように、自分の遺書を赤の他人の家に投函することで憂鬱を晴らそうとする。その遺書を読んだ鳴海と、フリージャーナリストの直樹(鐘ヶ江佳太)は、いくが発するSOSを感じ……。

【クレジット】
阿部百衣子 せとらえと 鐘ヶ江佳太 山本華世子 大友久志 ナツメ 杉山宗賢

脚本・監督:守田悠人
プロデューサー:佐藤形而 撮影・照明:田中丈尊 録音:五十嵐猛吏 音楽:大村知也 編集:小本菜々香 助監督:佐藤形而/阿部友馬 特殊メイク:柳川夏子 配給:アルミード
2020/日本/カラー/16:9/2ch/108分
(c)KAMO FILMS

公式サイト
https://zutsugaitai-movie.com