ニューヨーク・タイムズが「スケール感と野心に満ちた、英雄的作品」と称賛。ナチス占領下アムステルダムの記憶に斬新な手法で迫る、『占領都市』

 4時間越えの大作。2時間を過ぎたころに充分な休憩時間が訪れる。

 舞台はオランダの大都市アムステルダム。2005年には制作を考えていたとのことだが、撮影時期はパンデミックが大変な猛威を振るっていた頃だ。「人の極度に少ない大都市の風景は、こんなに荒涼としたものなのか」と、ちょっと怖い気分にもなる。

 同じように、アムステルダムが静まりかえった時代が、かつてあった。この街は第二次世界大戦中の1940年5月から5年間、ナチス・ドイツの占領下におかれていた。多くのひとが身を隠した。もろもろ書くのもつらいので、ここでは「あのアンネ・フランクも亡命先のアムステルダムで捕らえられたのだ」とだけ記しておく。強制収容所には10万7千人が移送され、統計にはその中の10万2千人が虐殺されたと記録されているようだ。パンデミックは、いわば「80数年ぶりにやってきたアムステルダムのゴーストタウン化」であった、とも考えられる。

 カメラは130もの「撮影当時最新のアムステルダムの建物や場所」を映し出す。そしてそれらが、占領下ではどのような状態だったのかが、きわめて冷静なナレーションと共に紹介される。どこかの国のように「その後、その跡地をどうするか」というヴィジョンなしに建物を作っては壊すことを繰り返すようなことはなさそうだし、街中が焼け焦げるような空襲もされていないから(ドイツからロッテルダム攻撃を受けたオランダは7日間で降伏した)、当時の建物がけっこうそのまま修復されて使われている。それがまた、なんともいえないリアリティをもって迫ってくる。また、指揮者ウィレム・メンゲルベルク(ジャズ・ピアニストであるミシャ・メンゲルベルクの父)の名が随所に登場するのも、彼の「戦時中における芸術的貢献」を知る一助となるはずだ。

 戦時中の映像や、当時を知る者の談話などは一切用いられていない。「ナレーションを聞いて、自らの想像力を働かせ、心で感じなさい」と語りかけられているような気分になった。途中、アフリカン・フェスティヴァルの風景も挿入され、約250年間の奴隷制に対して為政者が公式にアフリカ系の人々に謝罪するシーンもある。

 監督は『それでも夜は明ける』でアカデミー賞 作品賞・助演女優賞・脚色賞の3部門を受賞したスティーヴ・マックイーン、原作は歴史家のビアンカ・スティグターが記した「Atlas of an Occupied City (Amsterdam 1940-1945)」、製作はA24が手掛けている。

映画『占領都市』

12月27日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほか全国ロードショー

監督:スティーヴ・マックイーン
原作:ビアンカ・スティグター「Atlas of an Occupied City (Amsterdam 1940-1945)」 製作総指揮:ダニエル・バトセク、ベン・コレン、オリー・マッデン、ヤリフ・ミルチャ、マイケル・シェイファー 製作:フロア・オンラスト、アンナ・スミス=テンサー 撮影:レナート・ヒレッジ 編集:ザンダー・ナイステン 録音:ヨス・テン・クロスター 整音:ヤン・シェルマー ナレーション:メラニー・ハイアムズ 音楽:オリバー・コーツ(『aftersun/アフターサン』)
2023年/イギリス、オランダ、アメリカ /英語(一部オランダ語)/251分/スタンダード/カラー/5.1ch/G/原題:OCCUPIED CITY/日本語字幕:松田千絵
提供:TBSテレビ 配給:トランスフォーマー、TBSテレビ

公式サイト
https://transformer.co.jp/m/senryotoshi/