「小さな宝石」と賞賛された、いわくつきの一作が初公開から52年を経て日本上映

 トニー賞に輝く役者で、名監督エリア・カザンと結婚したことでも知られるバーバラ・ローデンが、監督・脚本・主演をこなした作品が『WANDA/ワンダ』である。1970年のヴェネツィア国際映画祭最優秀外国映画賞に輝いたものの、当時のアメリカでは過小評価され、後年、マーティン・スコセッシ監督が設立したザ・フィルム・ファウンデーションとイタリアのファッション・ブランド“GUCCI”の尽力によってプリントが修復。その上映会がアメリカ・ニューヨークで行われた時は、ソフィア・コッポラ監督が案内役を務めた(2017年、アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録)。そんないわくつきの一本が、7月9日から東京・シアター・イメージフォーラムで上映されるのだ。

 バーバラ扮するワンダは、夫との離婚に関する裁判に出廷するため長距離のバスに乗らざるを得ないばかりか、工場の仕事も「遅すぎる」とクビになり、映画館で寝ている間にお金を盗まれてしまった。顔や体の動きなど全体から不幸をまき散らすような姿は「厭世的」といっても過言ではないが、生きていくための力強さは持っている。古ぼけたバーに立ち入り、とりあえずビールを飲ませてくれと頼むワンダ。カウンターの中の男は、やけにぎこちない。それもそのはず、彼は店員ではなかったのだ。では、本来の店員はどこに?

 そこがワンダと男(デニスと名乗るようになる)の道程の起点だった。このデニスを演じたマイケル・ヒギンズとの言葉のやりとりのほとんどは即興であるとのことだが、これが実にスリリングだ。英語ネイティブではない自分でも、目線の動かし方、声の抑揚等で、実にレベルの高い役者同士のインタープレイを行っているのだな、と、ひしひしと伝わってくるものがある。

 デニスは犯罪者であると、徐々にわかっていく恐怖。「だが今は彼と一緒に行動すべきだろう」と考えるときの、クールさ。実にユニークな逃避行が始まる。絶望したような表情をたたえつつ、「生きていくこと」に極めてポジティヴなワンダの姿勢は、多くの鑑賞者にとってカンフル剤にもなることだろう。

映画『WANDA/ワンダ』

7月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督/脚本:バーバラ・ローデン 撮影/編集:ニコラス T・プロフェレス 照明/音響:ラース・ヘドマン 制作協力:エリア・カザン
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ、ドロシー・シュペネス、ピーター・シュペネス、ジェローム・ティアー
日本語字幕:上條葉月 提供:クレプスキュール フィルム、シネマ・サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
【1970年/アメリカ/カラー/103分/モノラル/1.37:1/DCP/原題:WANDA】
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