「不屈の闘志」がギラギラと光り輝く。アウシュヴィッツでの実話を基にした作品

 2020年に権威あるポーランド・グディニャ映画祭の金獅子賞(最優秀作品賞)受賞、2022年にイーグル賞4部門(撮影賞、美術賞、メイクアップ賞、主演男優賞)を受賞した力作が、7月22日から新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開される。監督のマチェイ・バルチェフスキ(ポーランド出身)は、ホロコースト生存者の孫であるという。

 時代背景は1940年。主人公は、戦前のポーランドでボクシング・チャンピオンだったタデウシュ・ピトロシュコスキ。「ポーランドの人気者」は、ナチス・ドイツにとって目の上のたんこぶだ。政治犯として、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所送りとなった彼に新たに与えられた名前は「77番」。ナチスの連中は旨いものを食い酒や喫煙を大いに楽しみ、収容所おくりとなった人間を、まるでゲームのように殺してゆく。ナチスはポーランド人を「下等人間」と見なしていた。

 だが「77番」は、運よくそれをまぬがれる。ボクシングができたからだ。収容所にはレクリエーションがなかった。だからお偉方は「ボクシングを見るのは暇つぶしにもなるし、賭けボクシングもいいよねえ」という感じで、「77番」を、まあそれほど悪くない扱いにする。権力をかさにすることしかできない制服野郎たちの前で、いろんなケンカ自慢と試合(お偉方にとってはショー)を繰り広げる「77番」だが、彼にとってナチスの連中の前で勝つことなど大して重要ではない。生き抜くこと、そしてファイトマネー替わりの食料を飢餓や病気にあえぐ収容所の人々に分け与えることが大切なのだ。

 タデウシュは実在の人物で、終戦後はポーランドで子供たちにボクシングを指導したという。彼を演じたピョートル・グウォヴァツキは60本近くのポーランド映画に出演しており、本作ではクランクインの数か月前からトレーニングを重ね、肉体改造に成功、スタントマンなしで撮影に挑んだそうだ。はがねのような肉体だけではなく、「是が非でも生き抜いてやる」と訴えかけるような視線の鋭さも強く印象に残る。

 収容される直前のシーンで、グレン・ミラー楽団の演奏する「茶色の小瓶」が流れる。ナチス・ドイツではさておき、当時世界的に大流行していたアメリカのスウィング・ジャズだ。ミラーは楽団を解散して、志願のうえ米軍に入り、今も亡骸は発見されていない。戦争は一部の連中を儲けさせ、一部の連中の虚栄心を満たすかもしれないが、結果的には誰も幸せにしない。

映画『アウシュヴィッツのチャンピオン』

7月22日(金)より全国順次公開

出演:ピョートル・グウォヴァツキ、グジェゴシュ・マウェツキ、マルチン・ボサック、ピョートル・ヴィトコフスキ、ヤン・シドウォフスキ
監督・脚本:マチェイ・バルチェフスキ
撮影:ヴィトルド・プウォチェンニク
音楽:バルトシュ・ハイデツキ
日本語字幕:渡邉一治
配給・宣伝:アンプラグド
2020年/ポーランド/英題:The Champion of Auschwitz/91分/カラー/5.1ch
(C)Iron Films sp. z o.o,TVP S.A,Cavatina GW sp.z o.o, Hardkop sp.z o.o,Moovi sp.z o.o

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