「動く写真」を「映画」にした、幻のパイオニア=アリス・ギイの実像に迫る『映画はアリスから始まった』

 “映画の生みの親は?” そう問われたら、たいていのひとがリュミエール兄弟と答えることだろう。しかし、この答えが半分程度の正解でしかないことを筆者は、恥ずかしながら、この映画で知った。

 1873年にパリ郊外で生まれたアリス・ギイは、パリの写真機材会社の社長レオン・ゴーモンの秘書として忙しい日々を送っていた。1895年ごろのある日、アリスはゴーモン社長と共に“動く写真”を見たアリスは、社長に即座に「自分ならもっとうまいものが撮れる」と言ったと伝えられる。

 兄弟の作品が文字通り「動く写真」だとすれば、アリスの作風はより、ストーリー性に富んだもの。クローズアップ、特殊効果、カラー、音の同期といった手法を生み出したのも彼女であるという。23歳の時に初の監督映画『キャベツ畑の妖精』を制作、生涯に残した作品は1000本を超える。大変なパイオニアではないか。

 なのにどうして、彼女の名前はあまり語り継がれていないのか。そもそも、アリス・ギイとはなんなのか。そのあたりが、一枚一枚、ベールを剥ぐように明らかになってゆく。マーティン・スコセッシをはじめとする重鎮たちの証言は実に勉強になり、アリスの親族を丹念に探し出す過程は実にスリリングだが、圧巻はやっぱり、今も奇跡的に残っている(可燃しなかった)、アリス制作によるフッテージの数々だろう。なかには「百数十年早いTikTok」的な作品もあり、人間のやることなど時が流れても基本的には大して変わっていないのだと痛感させられる。この作品を見れば、アリス・ギイの復権に、誰もが協力したくなることだろう。7月22日からアップリンク吉祥寺にて公開、以降、全国順次公開予定。

映画『映画はアリスから始まった』

2022年7月22日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
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