1980~90年代の女性スターたちの「美」に貢献した、伝説的メイクアップ・アーティストの実像

 スターはひとりで輝きを放っているものなのか、それとも周りの尽力に照らされて輝けるものなのか。これはニワトリ・タマゴ論法にも通じる難しさである。が、確実に言えることは、このドキュメンタリー映画の主人公、ケヴィン・オークイン(オークワン)はアメリカのトップを行くメイクアップ・アーティストとして、名だたる女性スターたちの輝きに貢献しながら20世紀最後の20年を疾走したということだ。

 出身はアメリカ南部のルイジアナ州、フランス系の名字を持つ家庭に養子として入った。ストレート(異性愛)やマチズモになじめなかった彼はニューヨークに向かい、急速に“美”に対する才能を開花させる。当時はまだアナログの時代だ。ナチュラルな中にメリハリの利いた、いかにもフィルムや紙媒体に映えるメイクアップ。そのノウハウが、当時のアーカイヴを駆使しつつ解明されてゆく。

 少年の頃からの憧れだったバーブラ・ストライサンドを筆頭に、ジャネット・ジャクソン、ライザ・ミネリ、シェール(美魔女の先駆者だと思う)、ホイットニー・ヒューストン、ナオミ・キャンベルなどを手がけ、「ケヴィンでなければ」との信頼を彼女たちから引き出す。女性の美学にスッと入っていける特性の持ち主だったのだと思うし、彼の豊富な恋の遍歴は、そんな細やかなところに惹かれる男性たちも後をたたなかったからではないか、との想像も与える。資生堂とも提携していたという話は初めて知った。日本が世界の第一線で走っていた頃の、うらやましくなるような事実だ。

 若死の原因となった「末端肥大症」についても触れられている。ケヴィンはニューヨークに来てから身長が25センチも伸びて、手が大きくなり、アゴが出るようになった。子供の頃、急に背が伸びて、体が痛くなった時期を体験した経験を持つひともいると思う。それがずっと24時間、何年も続く状態だったのだろう。よって投薬でそれを抑えるわけだが、副作用は彼の指先に確実に影響を与え、神業的なメイク・テクニックに陰りがさしてゆく。晩年の彼を語る友人や恋人の表情がまた、切ない。10月7日より全国順次公開。

映画『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』

10月7日 渋谷ホワイトシネクイント先行公開
10月14日 アップリンク吉祥寺
10月29日 シネマ・ジャック&ベティほか 順次公開

出演:ケイト・モス、リンダ・エヴァンジェリスタ、ナオミ・キャンベル、シェール、イザベラ・ロッセリーニ、ブルック・シールズ、ほか

監督:ティファニー・バルトーク
製作総指揮:ジャック・ターナー、ジェイ・ピーターソン、ボビー・コンドラト、トッド・ルービン
撮影:アンドレス・カル
編集:エズラ・ピーク
音楽監修:ロバート・カパドナ
オリジナル音楽:スコット・ドハティ、ウィル・ゴールデン
字幕翻訳:額賀深雪
配給・宣伝:アップリンク
2017/アメリカ/102 分/原題:Larger Than Life: The Kevyn Aucoin Story
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