映画『夜、鳥たちが啼く』の完成披露舞台挨拶が開催。「松本まりか」は「今回のような作品に憧れていた」

 『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』などで知られる作家・佐藤泰志が、函館ではなく関東近郊を舞台に描いた短編小説『夜、鳥たちが啼く』(所収「大きなハードルと小さなハードル」河出文庫刊)が映画化。12月9日(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショーとなります。脚本は同2作を手掛けた高田亮、そして、高田の助監督時代からの盟友であり、近年『アルプススタンドのはしの方』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』などジャンルを問わず話題作を生み出し続け、高い評価を得る鬼才・城定秀夫が監督を務めます。

 内に秘めた破壊衝動と葛藤する売れない小説家の主人公・慎一を演じるのは『東京リベンジャーズ』『燃えよ剣』『余命10年』など多彩な役柄で観客を魅了し続けてきた実力派俳優・山田裕貴。離婚を機に、息子とともに慎一のもとに身を寄せるヒロイン・裕子を、近年、内田英治監督、タナダユキ監督、紀里谷和明監督、松本優作監督など、気鋭の監督作品への出演が絶えない演技派女優・松本まりかが演じ、他者との深い関わりを避けて生きることを望みながらも、一人では生きていけない。だからこそ人生を照らす仄かな光を見出そうともがく生身の人間の姿を、静謐かつ鮮烈な熱演でスクリーンに焼き付けました。

 その他、慎一のかつての恋人・文子役に若手女優・中村ゆりか。裕子の元夫で慎一の職場の先輩・友人でもある邦博には、名バイプレーヤー・カトウシン スケ。オーディションで選ばれた注目の子役・森優理斗や、藤田朋子、宇野祥平、 吉田浩太、縄田カノン、加治将樹ら、魅力的な俳優陣が物語を彩っています。この冬話題の、大人が楽しめるラブストーリーが誕生しました。

 11月17日には、本作の完成披露舞台挨拶を実施。主演・山田裕貴、共演・松本まりかに加え、鬼才・城定秀夫監督が登壇し、「半同居生活」という新たな“愛のカタチ”を描いた本作の撮影秘話をたっぷり語り明かしました。
          ●          ●
 若くして小説家としてデビューするも、その後鳴かず飛ばずの鬱屈した日々を送る主人公・慎一を演じた主演の山田裕貴。満席の客席を眺めながら「これまでで一番感想が気になる作品です。観終わったら皆さんの感想をエゴサするので、自分の言葉で感想をいただけたら」と映画への反響を期待。慎一は、人との距離の取り方がうまくできない人物だが「彼の行動すべてが愛を求める叫びのように思えた。人に干渉はされたくないけれど人と関わり合いたいという葛藤を持っている人でその表現がへたくそ。演じる上では共感しつつも、こうはならないようにと自分の心の中に眠る汚い感情をそのまま出してやっていました」と演じる上での心構えを明かした。

 慎一の家でいびつな「半同居生活」をする行き場のないシングルマザー・裕子役の松本は、「どうも、闇本です(笑)」と先日のツイート投稿がネットニュースで取り上げられた事を冗談として笑い飛ばしつつ、「15歳でデビューして22年くらいになりますが、今回のような作品に憧れていたのでお声がけいただけるようになって感慨深いです。目の前のことをガムシャラにやって来たから、憧れていた世界に来られたんだという思いがあります。それほど嬉しかった」と本作出演への感無量な想いを吐露。

 5度目の共演となる山田については「人間力が凄い。まさに生命体。この生命体から何が出てくるのか? その面白さにワクワクしました」と一方的に熱弁しながら「これ伝わってる?」と照れ笑い。しかし山田も「うん、僕にはすごく伝わってる」と優しく答え、強い信頼関係で結ばれている様子を披露。しかし、すかさず山田からは「舞台袖にいたときは『喋れなかったら助けてね!』と言っていたのに…メチャメチャ喋るやん!」と突っ込まれるなど、場内には笑いが。

 さらに松本は、自身が演じた裕子は心の傷に蓋をして葛藤しながら生きる役どころだが「つかみどころのない人で凄く歯がゆかった。自分が何を求めているのかを見ずに蓋をして。でもその感じが当時の自分の心境と重なったので、そのもどかしさを利用しました。まるで右手と右足が同時に動いてしまうような違和感をそのまま演じたというか…」と心の中にある感情をぶつけながらキャラクターに向き合ったと言い、「だからあのシーンでもね?」と松本が山田に問いかけると「あ、あそこね。言葉がいらない感じ。きっと観てもらったらわかると思うんですけど…」と上映前の舞台挨拶という事に配慮しつつ、まるで劇中の慎一と裕子さながら、語らずとも通じ合っているかのような以心伝心を感じさせる雰囲気で笑顔を見せていた。

 佐藤泰志の短編小説を映画化しようと思った理由について城定監督は「佐藤泰志さん原作の映画はどれも傑作だと思うけれど、自分の中でのチャレンジとしては明るい気持ちで観られるような雰囲気にしたかった。家族を作る話は佐藤さん原作の映画ではなかった物語でもあるので、それにもチャレンジしようと思った」と本作映画化への狙いを明かした。

 劇中では、“結婚もしてないのに家庭内別居”という、これまでにない新しい愛の形とも言える「半同居」関係が描かれる。本作ならではの二人の関係について山田は「慎一という役をやってから半同居する気持ちがわかると思った」と共感しつつも「僕はその方向に向かってしまうのか…と思ってしまう」と苦笑い。

 一方の松本は「この作品をやるまでは理解したくなくて、曖昧な関係性は耐えられないし、したくないと思っていました。二人の間に愛があるのはわかるけれど、自分ができるのかと言われたら不安。その感情に自分を持って行くのはきつかったです。でもいざ演じてみると『あー、そういうことか』と。慎一と裕子は自分よりも強いのではないかと思って、カッコいいとも思えました。枠に捕らわれて形がないと不安だと言うのは自分が子供だからだと気付かされた。成長させていただきましたし、そんな気持ちになったのは自分でもビックリのギフトでした」と作品を通して学びを得たようだった。

 最後に主演の山田は「皆さん一人一人が今幸せだと思えていること、そして周りの目を気にせずに生きていくことが一番大切です。色々な人がいてよくて、みんながそれを支え合える社会になればいいという願いもこの作品に込めました。生きづらい人たちが一歩踏み出す作品なので、そういったところを見ていただければ嬉しいです」とアピールし、舞台挨拶は幕を閉じた。

映画『夜、鳥たちが啼く』

12月9日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

出演:山田裕貴 松本まりか 森優理斗 中村ゆりか カトウシンスケ/藤田朋子/宇野祥平 吉田浩太 縄田カノン 加治将樹

監督:城定秀夫 脚本:高田亮 原作:佐藤泰志「夜、鳥たちが啼く」(所収「大きなハードルと小さなハードル」河出文庫刊) 製作・配給:クロックワークス
2022年/日本/115分/ビスタ/DCP5.1ch 映倫:R15
(C)2022 クロックワークス

【STORY】 
若くして小説家デビューするも、その後は鳴かず飛ばず、同棲中だった恋人にも去られ、鬱屈とした日々を送る慎一(山田裕貴)。そんな彼のもとに、友人の元妻、裕子(松本まりか)が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一が恋人と暮らしていた一軒家を、離婚して行き場を失った2人に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きするという、いびつな「半同居」生活。自分自身への苛立ちから身勝手に他者を傷つけてきた慎一は、そんな自らの無様な姿を、夜ごと終わりのない物語へと綴ってゆく。

書いては止まり、原稿を破り捨て、また書き始める。それはまるで自傷行為のようでもあった。

一方の裕子はアキラが眠りにつくと、行きずりの出会いを求めて夜の街へと出かけてゆく。親として人として強くあらねばと言う思いと、埋めがたい孤独との間でバランスを保とうと彼女もまた苦しんでいた。そして、父親に去られ深く傷ついたアキラは唯一母親以外の身近な存在となった慎一を慕い始める。慎一と裕子はお互い深入りしないよう距離を保ちながら、3人で過ごす表面的には穏やかな日々を重ねてゆく。だが2人とも、未だ前に進む一歩を踏み出せずにいた。そして、ある夜・・・。

公式サイト
https://yorutori-movie.com/