70人以上を逮捕に導いた潜入捜査官の実話をもとにした一作。音楽にも要注目の『ヒットマン』

 『6才のボクが、大人になるまで。』等で知られるリチャード・リンクレイター監督と、『トップガン マーヴェリック』で強烈な存在感を印象づけたグレン・パウエルが組んだ一作。ふたりは共同で、本作の脚本も手掛けている。また、原案は「テキサス・マンスリー」誌に掲載されたスキップ・ホランズワースの記事に基づく。

 主人公は、大学で心理学と哲学を教えている。といってもインテリ臭を華やかに全開しているわけではなく、一見、いかにもありふれた男だ。が、人は見かけによらぬもので、彼にはニセの殺し屋に扮し、地元警察のおとり捜査に協力するという「任務」にもついていた。多重人格というか、髪型、服装、口調などをコロコロと変えながら、「先生」の時間と「殺し屋」の時間を使い分けていく。だが、キャラクターは切り替えても、心そのものは同じであり、あろうことか、捕まえるべきひとに恋をしてしまうのである。この「禁断」をどう乗り切るかが物語の最大の焦点となろうし、2匹の猫の存在も良き清涼剤となっている。他の出演者はアドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオほか。

 「ジャズの都」ニューオリンズを舞台とする物語ということで、ジェリー・ロール・モートン、バックウィート・ザディコ、ドクター・ジョンなどゆかりのある面々の楽曲が挿入されているし、ルイ・アームストロングのテーマソングである「南部の夕暮」がルビー・ブラフのヴァージョンで入っていたのにも驚かされた。また、「Cast Your Fate to the Wind」(“運を風にまかせる”といった意味)が、まさしくその通りのタイミングの場面で流れるあたりも心憎い。音楽のセレクターは心から楽しんでこの仕事をしたことだろう。また、サウンドトラックの演奏には現役屈指のジャズ・トロンボーン奏者であるアンドレ・ヘイワードも加わっている。

映画『ヒットマン』

9月13日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター&グレン・パウエル
原案:「テキサス・マンスリー」誌 スキップ・ホランズワースの記事に基づく
出演:グレン・パウエル/アドリア・アルホナ/オースティン・アメリオ/レタ/サンジャイ・ラオ
原題:Hit Man/2023年/アメリカ映画/英語/115分
字幕:星加久実
配給:KADOKAWA
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公式サイト
https://hit-man-movie.jp/