1880年代から1920年代にかけて引く手あまただった画家、ルイス・ウェインの伝記映画だ。ベネディクト・カンバーバッチがルイスに扮する。
天才肌のアーティストとして、今なおリスペクトされているルイス・ウェインだが、今回この作品を見て、ひじょうに稀な人物であるという認識を新たにさせられた。まず生育環境が風変わりだ。6人きょうだいで、彼以外は皆女性。しかも彼女たちは誰かと婚姻することもなく、ひょっとしたら生涯、恋をしたことのないひともいたかもしれない。ルイスはひとり男性として、共同生活する彼女たちのことも養わなければならなかった。口ひげを伸ばしていたのは口唇の傷を隠すためでもあったようだ。
が、そうしたコンプレックスやウヤムヤを瞬時に吹き飛ばしてくれる女性がルイスの前に現れる。年齢が異なろうが(彼女がほぼ10歳年上)、身分差があろうが(彼女のほうが下)、この女性エミリーは彼に“肯定”をもたらした。ほめられるとうれしいもので、ルイスのアートにおける潜在能力はどんどん開花していく。拾い猫の“ピーター”からもインスピレーションを受けて、猫のイラストも描いたが(マンガ的というよりは擬人化したもの)、これもまた当時としては掟破りなものだった。なぜなら当時、猫は「不吉」「魔物」というイメージで捉えられていたからだ。ルイスは結果的に猫のネガティヴなイメージを払拭した。そう考えると、今日の猫ブームの許をたどれば、大本はルイス・ウェインにたどりつく。
後半、妻やピーターを失い、精神を病んでからのシーンはなかなかにハードなものだが、かつての芸術家は大概において狂気と隣り合わせだった。生きるとは、アートとは何か? 愛は人間の間だけに存在するのか? この作品は確実に、それを問うている。監督・脚本:ウィル・シャープ、12月1日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
12月1日(木)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、クレア・フォイ、アンドレア・ライズボロー、トビー・ジョーンズ andオリヴィア・コールマン(ナレーション)
監督・脚本:ウィル・シャープ 原案・脚本:サイモン・スティーブンソン 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
2021年│イギリス│英語│111分│カラー│スタンダード│5.1ch│G│原題:The Electrical Life of Louis Wain│字幕翻訳:岩辺いずみ
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