これこそシンクロニシティというべきだろう。2020年から続く新型コロナウイルスから着想を得たストーリーかと思ったら、脚本が書かれたのは2017年、撮影されたのは2019年だというから驚くしかない。それが今、ついに日本で上映されることの意義は大きい。監督・脚本はブラジルの新鋭、イウリ・ジェルバーゼ。言語はポルトガル語、ひじょうにメロディアスで、場所によってはスローなサンバを耳にしているような気分になる。
ある日突然、ピンク色の雲が空を覆う。外に出ては命が危ない。10秒で死ぬ、という説すら出ているのだ。必然的に家にこもるようになり、従来のような交友や旅や買い物ができなくなる。だが家にいても新しい朝は必ずやってきて、人間の営みは続く。夫妻の間にも子供が生まれ、性欲がおさまらないある男は画面の向こうの女性とどうにか通いあおうと奮闘する。
劇中での子供の成長ぶりからすると、この「雲」は彼の誕生から数えても少なくとも2、3年以上は存在し続けていることが推測できる。子供は外に出たことがないし、おそらく外と内という概念がない。だから息苦しさも感じることなく、生まれて来た時から当たり前だった状態の中で屈託なく生きる。「パンデミック前」を知っている世代とのジェネレーション・ギャップだ。
ジャンルとしてはSFに属するのだろうが、2023年の我々にとってはがっちり、リアリティである。1月27日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
映画『ピンク・クラウド』
1月27日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
出演:ヘナタ・ジ・レリス、エドゥアルド・メンドンサ、カヤ・ホドリゲス、ジルレイ・ブラジウ・パエス、ヘレナ・ベケル
監督・脚本:イウリ・ジェルバーゼ
配給・宣伝:サンリスフィルム
【2020年/ブラジル/ポルトガル語/103分/シネスコ/5.1ch/カラー/原題:A NUVEM ROSA/字幕翻訳:橋本裕充】
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