200年前の物語であっても、人間の本質は変わらない。観る者を引き込む「上京あるある物語」を描く『幻滅』公開へ

 原作は、フランスの文豪オノレ・ド・バルザックが書いた小説「幻滅 メディア戦記」。物語の舞台は19世紀前半なので、ざっと200年前のストーリーだ。なのに、むちゃくちゃヴィヴィッドだ。とくに地方都市から大都会(東京でもニューヨークでもベルリンでも)にやってきた経験を持つ者なら、「あるある」の連続に、共感の心が拡がって、嬉しくなったり、恥ずかしくなったり、甘酸っぱくなったり、いろいろ思い出しては感慨深くなるに違いない。人間の「さま」には国籍や言葉や生きている時代を超えて、普遍的なものがあるのだろうなあ、という気持ちがいっそう強まった。登場人物のキャラクターが立っているのもいい。

 主人公は、地方出身者のジュリアン。詩人としての成功を夢見ていて、良い意味で世俗に染まっていないのだが、それでもしっかり貴族の人妻と恋をするぐらいの出会いと抜かりなさはあった。逃げるように(といっていいだろう)ふたりで大都会パリへ進出し、ジュリアンは詩で生活しようと意気込むが、「無名人の書いた詩なんて売れない」と体感し、生活のため新聞記者としての仕事を始める。中身など薄くてもどんどんセンセーショナルな記事を作っていくのか、それとも丁寧で誠実な記事をつくっていくのか。いろんな場所からきた、いろんな考えを持つ人との接触が、ジュリアンをどんどん揺さぶってゆく。誰だって栄光は欲しいし、楽して金が儲かるならそれに越したことはないのだが、ジュリアンにその適性があるのかどうか、原作を読んで結末を知っているひとでも、十二分にハラハラさせてくれるであろうスリルが画面には横溢している……そう断言しても間違いにはあたらないはずだ。

 主演はバンジャマン・ボワザン、監督はグザビエ・ジャノリ。先日『メグレと若い女の死』が国内公開された重鎮、ジェラール・ドパルデューの存在感も相変わらずだ。2021年の第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品、2022年の第47回セザール賞で作品賞を含む7部門に輝く、2時間半を猛烈な短さに感じさせる傑作である。

映画『幻滅』

4月14日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

字幕:手束紀子 配給:ハーク 配給協力:FLICKK 後援:アンスティチュ・フランセ日本 レイティング:R-15
(C)2021 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 3 CINEMA – GABRIEL INC. – UMEDIA

公式サイト
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