その道化師たちに気をつけろ! オーバーツーリズムへの警鐘にもなる、手加減なしの殺戮エンタテインメント『ベネシアフレニア』

 この監督も脚本家も皆、心に狂気を飼っているのではないか。何がどうなったら、ここまでの恐ろしさを映画中に横溢させることができるのか。なんたるチームを組んだのだ、と思ったら、アレックス・デ・ラ・イグレシアがひとりで監督も脚本も(こちらはホルヘ・ゲリカエチェバァリアと合同)で手掛けていたのだった。クエンティン・タランティーノが絶賛し、『気狂いピエロの決闘』ではヴェネツィア国際映画祭の監督賞・脚本賞を受賞したスペインの鬼才である。手加減なしの殺戮エンタテインメントは観る人(と、そのひとの心臓の状態)を相当選ぶことだろうが、同時に、なんとも小気味よいスピード感も運んでくる。

 舞台はイタリアのヴェネツィア。ここに結婚を控えたイサとその友人たちがスペインからやってくる。だが地元民のすべてが観光客を歓迎しているわけではなかった。我がもの顔で立ち入り、浮かれ、騒ぎ、環境を汚していく彼らを快く思わない層もかなりいた。地元民は道化師のコスプレをして、いかにも陽気にふるまいつつ、観光客を殺しにかかる。だがそれを見ているほかの観光客はそれをアトラクションかなにかの一環と考えていて、まさか実際の殺人だとは思っていない。

 イサと友人たちがだんだんと「標的の中に自分たち外国人がいる」ことがわかってくる過程と、そこからどう生き延びていくか、いかにヴェネツィアから逃げ出していくか、に至るまでの心理の変化がキメ細かに描かれているところも、この作品の大きなポイントだ。出演はイングリッド・ガルシア・ヨンソン、カテリーナ・ムリーノ、コジモ・ファスコ。

映画『ベネシアフレニア』

4月21日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア、ホルヘ・ゲリカエチェバァリア
撮影:パブロ・ロッソ
音楽:ロケ・バニョス

出演:イングリッド・ガルシア・ヨンソン、カテリーナ・ムリーノ、コジモ・ファスコ、シルビア・アロンソ、ゴイセ・ブランコ、ニコラス・イロロ、アルベルト・バング

2021年/スペイン/スペイン語・イタリア語・英語/シネスコ/5.1ch/99分
原題:VENECIAFRENIA/字幕翻訳:北村広子 レイティング:R15+
配給:クロックワークス
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公式サイト
https://klockworx-v.com/veneciafrenia/