母親への思いを胸に、「あのラーメンの味」を再興。岩手県・釜石市ロケによる人情コメディ映画『釜石ラーメン物語』

 「人情っていいなあ」とあらためて思わせてくれる、心の奥に火がともるようなコメディだ。

 岩手県・釜石市の、家族経営の老舗「小川食堂」が舞台。母親のつくるラーメンのおいしさは天下一品だったものの、2011年の震災で行方不明に。父親、妹は「ふんぎりをつけなければ」と思いながら毎日を過ごしている。が、どうにも母親の味は出せていない。そこに3年ぶりに戻ってきたのが、元不良少女の姉。妹よりも母のラーメンをよく知る姉である。湯切りのタイミングから何から異なることを指摘し、さらに製麺メーカーやタレにも注意深く心を砕き、いわば「伝説のラーメン」の再興に取り組んでいく。

 これがメイン・テーマだろうが、その枝葉がまた面白い。話がどんどんそれて、発展し、エキサイティングになっていく。加えて、釜石の大自然が存在感を示す。こうした環境の中で演じることは、役者たちをいっそう伸び伸びした気持ちにさせたのではなかろうか。父、姉、妹の間で(母への慕い方のベクトルが異なるがゆえに)ぎくしゃくする箇所も出てくるのだが、これが、たとえば都会の一室であれば顔をつきあわせて口論することであろう。が、この映画では、それぞれが大きく距離を取って、腹の底から声を出して、気持ちよいぐらいにシャウトして互いの意見をぶつけあうのである。まるでスポーツのようにさわやかな口論だ。ほか、「昭和の面影」を残す店舗と、ユーチューバーを対比させるあたりにも、作品作りの妙という印象を受けた。

 観終えた後、釜石ラーメンが細麺であること(忙しい労働者が短時間で食べることができるよう、麺とスープの馴染みを考えてのことでもあるらしい)、しょうゆ味であること、ラーメン専門店よりは食堂が盛んな土地で、そのなかのメニューにラーメンがあるのがスタンダードであること、などを調べて学んだ。見ると調べたくなってしまう魅力があるのだ。もちろんいくら学んだところで、実践(食事)をしなければ釜石ラーメンを理解したとはいえないはずだから、ぜひ出かけて、食べてみたい。そう思わせるのに充分な作品である。

 主演は井桁弘恵。その妹を池田朱那、父を利重剛が演じる。監督は今関あきよし、7月8日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。

映画『釜石ラーメン物語』

7月8日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

<キャスト>
井桁弘恵 池田朱那 利重剛
渡辺哲 大島葉子 岡村洋一 木月あかり 厚木拓郎 関口アナン 栩野幸知 佐々木琉 山崎将也 森湖己波 長田涼子 椿かおり 島本和人 佐伯日菜子 村上弘明(特別出演) 藤田弓子(友情出演)

<スタッフ>
脚本・監督:今関あきよし プロデューサー:伊藤直克 脚本:いしかわ彰 撮影:三本木久城 録音・音響効果:丹雄二 美術:Yocco 編集:鈴木理 音楽:遠藤浩二 助監督:土田準平 制作進行:井口光徳 主題歌「ひかり射し込む場所」洸美-hiromi- 協賛:新潟商事 釜石はまゆり会 協力:釜石市 制作協力:寿々福堂
2022/日本/カラー/16:9/85分
(C)「釜石ラーメン物語」製作委員会

公式サイト
http://kamaishi-ramen.jp/