興味が尽きない鬼才タランティーノの「頭と心の中」に、名シーンや俳優のインタビューで迫る『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』

 「60歳、長編映画10作品で引退」を表明しているクエンティン・タランティーノ監督。秋からその10作目の撮影に着手するとも伝えられているが、「その前に、これまでのキャリアをざっと振り返ってみよう」という方にも「タランティーノという名前は知っているけれど、具体的に何から見ればいいのかわからない」という方にも、大いにアピールするであろうドキュメンタリー作品が公開される。それがタラ・ウッド監督・脚本の、『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』である。

 内容はほぼ編年体で、デビュー作『レザボア・ドッグス』から目下の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』までの歩みが、名場面や登場俳優の回想録と共に紹介される。「これぞ正攻法ドキュメンタリー」という感じだが、それが逆にタランティーノ作品の持つ、強烈な個性、アクの強さを打ち出すことになっていて、実に興味深く最後まで楽しんだ。

 ビデオショップに勤めていたということもあるのか過去の東西の映画やテレビ番組に精通していることはもちろん、音楽へのこだわりについてもしっかり紹介され(ソウル・ミュージックの男性グループ“デルフォニクス”を、タランティーノ経由で知ったファンは多いはずだ)、同時に「女性への敬意」、「どんな人種であっても尊重されるべき」、「出演者を決して不快にしない、もうワン・テイクの撮影を要求する仕方」など、いくつもの“タランティーノ流”が浮かび上がる。筆者はタランティーノの作風に、80年代後半から90年代前半、実にわかりやすく超エクレクティック(折衷的)だった時期のジョン・ゾーン(彼は中古レコード店に勤めて在庫を聴きまくり、音楽性を形成したときく)に共通する香しさを感じるのだが、皆さんはどうだろう。

 インタビュイーはゾーイ・ベル、ブルース・ダーン、ロバート・フォスター、ジェイミー・フォックス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ダイアン・クルーガー、ルーシー・リュー、マイケル・マドセン等。「あのシーンはこうだった」的な発言も満載だ。この映画のために新規に収録されたタランティーノの発言や姿は一切ない。我々は「不在であることによって生まれる、とてつもなく大きな存在感」を体感することになる。

映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』

8月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開

監督・脚本:タラ・ウッド
出演:ゾーイ・ベル/ブルース・ダーン/ロバート・フォスター/ジェイミー・フォックス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェニファー・ジェイソン・リー/ダイアン・クルーガー/ルーシー・リュー/マイケル・マドセン/イーライ・ロス/ティム・ロス/カート・ラッセル/クリストフ・ヴァルツ
2019年/アメリカ/英語/101分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題: QT8: THE FIRST EIGHT/R15+/日本語字幕: 高橋彩 配給:ショウゲート

公式HP
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