世界を歓喜させた「パントマイムの神様」の、知られざる真実に迫るドキュメンタリー『マルセル・マルソー 沈黙のアート』

 今年で生誕100年を迎えるマルセル・マルソー。この作品は、いまなおパントマイムの代名詞であろう彼の実像に迫るドキュメンタリー映画である。「動きと表情で魅せる(言葉を使わない)パントマイムが、果たして映画映えするのだろうか?」と、私は少々いぶかりながら観始めたのだが、それは杞憂だった。

 マルソーの遺した映像や、彼のバイオグラフィも紹介される。ユダヤ人であること、アウシュヴィッツで父親が殺されたこと、レジスタンス運動に参加していたことなど……若き日の彼を知るいとこのジョルジュ・ロワンジェ(収録当時108歳)の発言はことさら貴重だ。加えて、いつかマルソーに関する映画を作りたかったという妻のアンヌ・シッコ(パントマイム教室を運営)、マルソーに学んだロブ・メルミン、ろう者のパントマイマーであるクリストフ・シュテルクレなどがそれぞれのアングルでマルソーへのオマージュを表現する。気鋭パフォーマーであるルイ・シュヴァリエが、「巨匠の孫」ということで受けるプレッシャーを率直に語るのも印象深い。マルソーはルイが5歳の時に亡くなったので、直接ダンスの指導を受けたことはないのだが、世間は「血筋」を尊ぶ。

 1944年から本格的な活動を始め、世界中にパントマイムの面白さと奥深さを広めたマルセル・マルソー(日本にも90年代まで数多く訪れた)。彼の存在が、そしてパントマイムが、ぐっと身近に感じられる一作だ。監督はケルン生まれのマウリツィウス・シュテルクレ・ドルクス。

映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』

9月16日よりシアター・イメージフォーラムにて公開
(C)Beauvoir Films / Raphael Beinder
(C)Les Films du Prieur? / Dominique Delouche

公式サイト
http://www.pan-dora.co.jp/marceau/