「レンタル彼女のアルバイト」って何だ? 観る者の心のひだに触れる、実に温かな一作『たいせつなひと(仮)』

 「レンタル彼女」という職業がある。彼女的な存在が必要となった男性がエージェントに登録し、指定された時間の中でデートをしたりする。むろん性的な行為は厳禁、2ショット撮影も「彼女」によってはNGだ。外で会うか、家で会うかによって金額は変わる。「依頼人に癒しを与えること」が本筋である。

 当映画は、その「レンタル彼女」のアルバイトをする30代前半の女性・「ユキ」こと悠里(吉原麻貴)が主役の物語。彼女は両親と弟と共に、広い部屋で暮らしている。そして「親友」もいる。「家族」も「親友」も皆が「レンタル彼女」という職業に理解を示し、協力的だが、どこか動きや目線がぎこちない。その「ユキ」が所属する派遣元の女性社長は彼女にとても優しいものの、一種、催眠術師的なところもあり、ある意味、主役以上に謎めくキャラクターだ。

 前半は、おだやかでなめらかな展開が続くものの、徐々に悠里の素性が明らかになってゆく。ヒット本を出したこともある小説家の彼女が、「ユキ」と名前を変えてまで、なぜ「レンタル彼女」をするのか。ぎこちない「家族」の正体は何なのか。なぜ男たちは「レンタル彼女」を求め、時にガチ恋をしてしまうのか。

 男性と女性では大いに視点が変わる映画かもしれない。異性同士で映画館に足を運び、観終わった後に語り合ってみるのも有益だろう。脚本家や俳優としても活動する中村公彦が、5年ぶりに手がけた長編監督作としても話題を呼びそうだ。

映画『たいせつなひと(仮)』 My Precious(tentative)

10月7日~13日(金)まで、高円寺シアターバッカス「中村公彦WORKS 2020-2023」特集上映内にて上映中

<キャスト>
吉原麻貴 森田このみ 藤井太一 川連廣明 林和哉 山本宗介 久藤さゆ 髙村康一郎 若狭ひろみ 山下ケイジ 池内祥人 鈴木まゆ 豊田崇史 野田悠月

<スタッフ>
監督・脚本・編集:中村公彦 プロデューサー:中村公彦、髙村康一郎 ラインプロデューサー:出町光識 撮影:宮永昭典 録音:奥村洋和 監督補・整音:荒木憲司 音楽プロデューサー:堀正明 音楽:長谷川哲史 美術:出町奈保子 制作進行:河合伸悟 グレーディング:林和哉 製作:結晶プロジェクト
2023年|70分|
(C)2023 結晶プロジェクト

https://bacchus-tokyo.com/6978/