史上最大の台風が海岸沿いの町を襲った! 元MNL48も登場する、実話をもとにした一作『たとえ嵐が来ないとしても』

 日本で夏を過ごすことが、一種のサバイバルになってしまった。そんな印象を受けて久しい。「夕立」の情緒などどこにもない邪悪で怪力そのもののゲリラ豪雨や、週末を狙ったかのように襲ってくる台風……。それらを体験した者(本州以南に住むほぼ全員であろう)にとって、この映画はことさらリアリティを持って響くはずだ。

 そして、本作は実際にあった出来事がモチーフになっている。2013年11月8日、レイテ島・タクロバンを襲った“史上最大の台風”ハイエン。一説によると死者・行方不明者は7361人、総被災者は1600万人(人口の約16%にあたる)という。タクロバンで生まれたカルロ・フランシスコ・マナタッド監督は被災の翌年から原案の執筆を始め、紆余曲折を経て、2020年、復興途中である同地で撮影を始めた。劇中で、いやでも目に入る、あの瓦礫たちは、災害から6年を経ても、まだ片づけられきってない瓦礫たちなのだ。

 もちろん内容は、悲惨さや悲しみに大きくシフトすることを注意深く避けていて、「希望を持つこと」「他人を信頼して、協力し合うこと」の大切さもしっかり描かれている。故郷をメタメタにされながらも、長い時間をかけて、ここまで前向きな作品を生み出したマナタッド監督は、勇気のひとなのだろう。フィリピンのトップスターであるダニエル・パディリアや元MNL48のランス・リフォル(劇中歌も歌う)などを含む華やかなキャスティング、ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品『立ち去った女』で知られるチャロ・サントスの出演も、考え抜かれてのものだろう。入り口がポップにすることで(人気者を出すことで)、多くの人が観てくれて、それが出来事を風化させないことにつながる。

映画『たとえ嵐が来ないとしても』

9月14日より東京渋谷・シアター・イメージフォーラム、
9月21日より大阪・第七藝術劇場、名古屋・シネマスコーレ
3都市限定公開

監督:カルロ・フランシスコ・マナタッド
2021年/フィリピン/104分/ワライ語/字幕:日本語。英語
配給:Foggy

公式サイト
https://movie.foggycinema.com/tatoearashi/