権力で正義は殺せやしない。フランスで起きた実話を基にしたサスペンス映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』

 規模の大小こそあれ、いつでもどこでも起こりそうな話だ。正義感を持つ人物がいれば、それを快く思わない人たちも必ずいる。

 この映画も実話が基になっている。主人公のモーリーン・カーニーはフランスの原子力企業に勤め、労働組合の代表を務めている。あるきっかけで、彼女は「闇」を知ってしまう。それは会社の未来、従業員の雇用などを左右するものだった。となると、告発し、防いでいくしかない。

 そこでモーリーンは自らの意志に従ったのだが、その行動は、ある層の権力者たちには、非常に都合の悪い、はた迷惑なものだった。さっそく、いろんな方法で彼女やそのまわりに危害が加えられる。おぞましく、こなまずるいやり方の数々。ある日、モーリーンは家にいるところをレイプに遭い、腹にナイフで文字を刻まれる。だが犯人たちは超の字のつくプロフェッショナルであり、一切の痕跡を残さずにその場を去った。

 権力側はこれを「自作自演の狂言だ」といい、新聞はモーリーンを狂人であるかのように書き立てた。あまりの取り調べのしんどさ・めんどくささ(誰もが彼女を疑うような、いくらしっかり話そうとしてもロクに耳を傾けてもらえないような状況の中で、レイプについて繰り返し説明しなければならない状況)にへきえきするモーリーンだったが、約6年の間に、本当に徐々にではあるが、疑いが晴れてゆく。このあたりの過程は本当に丁寧に描かれており、作品のキモでもあろう。

 緊張のとけない6年間だったはずだ。しかしモーリーンはしっかりと生き、疑いを晴らした。が、レイプ犯人は捕まらないままだという。彼らに対して「指令を出したひと」が誰なのか、その者がはたしてアンタッチャブルな権力者であったのかは、観る者の想像にまかされる。主演のモーリーン役はイザベル・ユペール。監督はジャン=ポール・サロメ、脚本はファデット・ドゥルアール、音楽はブリュノ・クーレが担当する。第79回ヴェネチア国際映画祭 労働・環境人材育成財団賞受賞作品。

映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』

10月20日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下他にて順次公開

監督:ジャン=ポール・サロメ
脚本:ジャン=ポール・サロメ&ファデット・ドゥルアール
プロデューサー:ベルトラン・フェヴル
原作:カロリーヌ・ミシェル=アギーレ著“LA SYNDICALISTE”(組合活動家)
【第79回ヴェネチア国際映画祭 労働・環境人材育成財団賞受賞】
原題:LA SYNDICALISTE 2022年/フランス・ドイツ/121分/1:2.35/5.1ch
原語:フランス語・英語・ハンガリー語
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ(ロゴ)
配給:オンリー・ハーツ
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公式サイト
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