ベンソン&ムーアヘッドの黄金コンビが、ロサンゼルスの湿り気を画面から放つ。『サムシング・イン・ザ・ダート』公開

 私がロサンゼルスに行った経験のあるひとから聞く感想は、「気候のあたたかさ」「太陽の輝き」「陽気な音楽」だったりするのだが、この映画で描かれているのはミステリアスな、いつまでも晴れない霧のような、しめっぽく、暗い、ロサンゼルスの姿だ。

 物語は基本的に、老朽化の進むアパートに住むふたりの男、リーヴァイとジョンのやりとりで綴られる。やがてジョンはリーヴァイの部屋に遊びに来るようになるのだが、そこで視界に入ったのは、あまりにも謎めいた結晶体であった。しかもその結晶体は妙な光を放ちながら浮遊するのだ。この結晶体を部屋に置き続けているリーヴァイも相当な強心臓だと思うけれど、それはさておき、この「未知のもの」に対してどう接するか、が、物語の最初の見どころとなる。

 どこか遠くに捨て去るか、燃えないゴミ的にオフィシャルに処理するか、誰かにあげるか、なにもせずに様子をみていくか。結果、ふたりは「ドキュメンタリー映像の製作」へと歩みを進める。なにしろふたりはカネがない。未知の現象をとりあげ、バズらせることによって、豊かな生活を送れるかもしれない。その野心がふたりの背中を押した。

 が、物事、そんなうまくいくわけはなく、しかも相手は「未知の結晶体」である。彼らの戸惑い、驚き、恐怖、その他もろもろを、スクリーン越しの我々もしっかり体験することになる。途中から強くあぶりだされてゆくリーヴァイとジョンの過去(セクシャリティなども含めて)、ひょんなことから広がっていく齟齬——–私は「観る者すべてが、この物語の登場人物なんだ」と言われているような気がした。

 マーベル・スタジオのオリジナル・シリーズ「ムーンナイト」、「ロキ」シーズン2の監督に抜擢されたジャスティン・ベンソンとアーロン・ムーアヘッドが監督、主演を担当(脚本はベンソン、撮影はムーアヘッド)。『マルホランド・ドライブ』、『アンダー・ザ・シルバーレイク』の流れを汲む“LA ミステリー”の新たなマスターピースとも評される本作は、11月24日から全国公開される。

★映画『サムシング・イン・ザ・ダート』

11月24日(金) 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

出演:ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド
監督:ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド
脚本:ジャスティン・ベンソン
撮影:アーロン・ムーアヘッド
製作:デヴィッド・ローソン・Jr、アーロン・ムーアヘッド、ジャスティン・ベンソン
編集:マイケル・フェルカー、ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド
音楽:ジミー・ラヴェル
2022年|アメリカ|英語|カラー|シネマスコープ|5.1ch|116分|レイティング:G
原題:SOMETHING IN THE DIRT|日本語字幕:髙橋彩
配給:クロックワークス
(C) 2021 Rustic Films

公式サイト
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