ある「親子のかたち」を、8年間の撮影を通じて描き出す。『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』

 不勉強にして「自閉症」についての知識がおぼつかなかった。外の世界と交流せず、自分の世界に引きこもっている人のことだと思っていた。

 違うのだ。それだけでこの映画は私にとって知となった。このドキュメンタリー作品の中心人物であるケース・モンマ(42歳)は年老いた両親と一緒に暮らしている。非常に丁寧でキメ細かな図や絵を描く才能を持っており、料理もよくするが、思ったことを一度整理することなくすべて口に出してしまうタイプのようだ。母親を本当に敬愛しているものの、父親に関してはいささか「発する音が下品だ」等、手厳しい。会話の相手が「流す」ような対応をすると、とたんにその言葉遣いが気に入らないと怒る。たとえそれが兄であってもだ。

 時に感情の制御がきかなくなるし、気候の変化にもとんでもなく敏感だ。他者の気持ちに思いを巡らせる、という概念もないようだ。が、それは別に彼がそう望んでなったわけではない。とんでもない葛藤が彼の心に渦巻いていることだろう。しかも、誰にも歳月の流れは平等にやってきて、生きていれば皆、年をとる。ケースの両親も、あと数十年後、健在かどうかがわからない。来るべき時を考えれば、早急に考えるべきは「ケースの自立」である。果たして彼はそれが直ちにできるのか? 試行錯誤のすえにできてゆくのか? それともできないまま映画が終わっていくのか? 鑑賞する私は半ば宙ぶらりんの気持ちで、ケースや家族の動きに気持ちをまかせた。言うことは簡単だが行うことは難しく、親子の絆は太い。そんな当たり前のことを、改めてオランダ人家庭から教えられるとは。監督・脚本、モニーク・ノルテ。

★映画『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』

11月25日(土)~12月8日(金)、新宿K’s cinemaにて上映

監督:モニーク・ノルテ
出演:ケース・モンマ/ヘンリエッテ・モンマ/ヴィレム・モンマ
2023年/オランダ/カラー/83分/ドキュメンタリー
原題:Kees vliegt uit 英題:A place like home
EUフィルムデーズ2023上映時邦題:ケースがはばたく日
※監督の許可を得てオリジナル版(105分/EUフィルムデーズ2023上映版)より短縮しております。

後援:オランダ王国大使館 Embassy of the Kingdom of the Netherland
一般社団法人 日本発達障害ネットワーク
一般社団法人 日本自閉症協会
日本版字幕:吉川美奈子 配給:パンドラ

公式サイト
http://www.pan-dora.co.jp/myfamily/