目を背けてはいけない、誰もが通る道なのだ。「病」「死」「老い」に迫るギャスパー・ノエ監督の最新作『VORTEX ヴォルテックス』

 ギャスパー・ノエ監督の最新作は、リヴィング・レジェンド級のふたり、ダリオ・アルジェント(どちらかというと監督として著名か。なんと今回が初主演だという)とフランソワーズ・ルブランの共演作品。老夫婦がいかに生涯を終えてゆくかを、約150分にわたって描いた一作だ。映画評論家の夫は重い心臓病を抱えており、元精神科医の妻の記憶は日に日に薄れている。このふたりと、生活の安定しない息子(離れた場所に家庭を持っている)が、主軸だ。

 画面は「スプリットスクリーン」、つまり二分割されている。ひとつの場面をぶった切って、左側のスクリーンでひとりを、右側のスクリーンでひとりをフィーチャーする形だ。しかし、基本的に同じ場面、同じ時の流れを描いているから、左側でメインになっている人物が右側に小さく現れることもある。私が唸ったのは、少し離れた場所でしゃべっている妻の長い発言を、夫がじっと耳にするシーン。たいして興味のない(だが聴きたくないというわけでもない)話を聞いているときのひとは、こんな表情をしているのか。

 老夫婦が「死んでいくまでの物語」であるが、その間に不倫、ドラッグなどのトピックも散りばめられてゆく。夫の部屋には当然ながら無数の書籍、CD、ビデオなどがあり、妻も精神科医になったほどだから勉学を重ねていたはずで、元気なころのふたりは相当に「知的な夫婦」だったのではないかと想像させてくれる。が、老いは何もかも奪ってしまう。そしてその老いは、私にも、あなたにもやってくる。第74回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映された一作。

★映画『VORTEX ヴォルテックス』

12月8日 ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネママリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国公開

監督・脚本:ギャスパー・ノエ
キャスト:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ
2021年/フランス/フランス語、イタリア語/148分/カラー/スコープサイズ・5.1ch/原題:VORTEX/字幕翻訳:横井和子/PG12
提供:キングレコード、シンカ 配給:シンカ
(C) 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE – KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA

公式サイト
https://synca.jp/vortex-movie/