一見、水と油の2人が闇の世界に飛び込んで、命がけで掴む「自由」。美しいカメラ・ワークも必見の一作『緑の夜』

 既成概念への憤懣やるかたなさ、自由への渇望、異性運の悪さ……そうしたファクターが投影された物語を、スタイリッシュなカメラ・ワークと共にじっくり見せていく力作である。2023年ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映、テディ賞/パノラマ観客賞にノミネートされている。

 主人公は中国から韓国に渡って飛行場の荷物検査係として働くジン・シャ(ファン・ビンビン)と、緑の髪を持つ謎いっぱいの運び屋(イ・ジュヨン)。片や真面目、片や奔放なキャラクターを持つふたりが出会い、ひょんなことから互いに対する理解を深め、共闘状態になってゆく。ふたりをとりまく男たちは、もはや人間の心を持っているとはいえないほど冷酷にして無茶だが、ジンも緑の髪の女も屈することなく、知恵を重ねあう。「このストーリー、書いたのは男ではないかもな」と思って調べてみたら、監督・脚本は、目覚ましい注目を集めている女流才人、ハン・シュアイであった。「こういう世界があるのか」と、謙虚に、男の私は見入った。

 ストーリーはたぶんに暴力的だが、その間でやわらかに存在感を主張しているのが、料理「トッポギ」の赤い色であり、犬の豊かな表情だ。緑の髪の女は、犬をこよなく愛し、今度は犬になって生まれてきたいとも思っていた。この箇所も個人的には大きなポイントであると感じた。ファン・ビンビンはこれが本格復帰第一作にあたり、是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』や「梨泰院クラス」で知られるイ・ジュヨンも、新たな代表作を得たといっていいはずだ。

映画『緑の夜』

1月19日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントにてロードショー

配給:ファインフィルムズ
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公式サイト
https://midorinoyoru.com/