どの登場人物に感情移入するかで、見方が大いに変わってくる映画なのではないかと思う。
とある裕福な親子が、彼らほど裕福ではない者をひき逃げする。もっともそのまま逃げ切るつもりはなく、一度家に戻って弁護士と連絡を取ってからしかるべき金額を払おうと動くのだが、日本の観点ではどう考えてもひき逃げだ。被害者の成人男性が回復する見込みはなく、妻の意志で「安楽死」となった。つまりこの家は一家の柱を失った。収入を絶たれた。
が、子供たちは小さく、妻(子供たちにとっての母)は何が何でも働かなくてはいけない。そこで手を差し伸べたのが、先に触れた裕福な親子の一家で……というあたりまでが内容に触れることのできるリミットだとしても、結果としては、自分の予想や考えとはまったくの別世界が広がっていた。物語のキャラクターが皆、「このあたりが落としどころ」と納得しているからこその最後のシーンなのだろうが、私はわからない。が、わからないものをまたひとつ知ることで、ひとは見識を広げることができる。ブリランテ・メンドーサ監督の「観客の凝り固まった映画的常識への挑戦」は、私にも有効だったわけだ。
とにもかくにも、心に残る作品である。できれば複数で観に行って、観終わった後にとっくり語り合ってみてはいかがか。
映画『FEAST -狂宴-』
3月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督:ブリランテ・メンドーサ 脚本:アリアナ・マルティネス 撮影:ラップ・ラミレス 美術:ダンテ・メンドーサ 編集:イサベル・デノガ 音楽:ジェイク・アベラ
出演:ココ・マーティン、ジャクリン・ホセ、グラディス・レイエス、リト・ラピッド
2022年/香港/タガログ語、パンパンガ語/104分/シネスコ/原題:Apag(英題:FEAST)
後援:フィリピン政府観光省 配給・宣伝:百道浜ピクチャーズ
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