今をときめくフランスのパティシエ、ヤジッド本人が監修に携わった“サクセス・ストーリー”『パリ・ブレスト ~夢をかなえたスイーツ~』

 ルイ・ヴィトンなどともコラボレートするフランスの現役パティシエ、ヤジッド・イシュムラエン(先ごろ来日して辻口博啓とのトークイベントを開催した)のサクセス・ストーリーを基にした一作。映画の役名もヤジッドという。かなりギスギスした環境の中で育たざるを得ず、法に触れることもしてしまうのだが、そんな彼にとって大きな安らぎとなったのが里親の家で食べるスイーツだった。そのうち彼はレシピに興味を持ち、作るほうへの情熱を増してゆく。

 才能は伸びに伸びて、やがてパリの高級レストランに見習いとして雇われるまでに。大変な出世なのだが、私は子供の頃から「世の中で男ほど嫉妬深いものはない」と実感しており、この映画における、とある、ヤジッドよりも遥か年上の人物の彼に対する行動はまさにそれを裏付ける。おいしいものを提供したい、より美しい盛りつけで、より手際よく。料理人はそう考えてこそスタートラインなのではないかという私の思いを、この人物は裏切る。職業上のマインドよりも「才能ある相手に対する嫉妬心」が上回っている男の行動の醜さ。それがいっそうヤジッドの料理に対する熱意を美しく際立たせる。もっとも実物のヤジッドが映画の監修にも立ち会っているからこそ、「ヒーロー度」も強まっているのだろうが……。

 ほか、多民族国家であるフランスのリアルが見えてくるシーンもあり、「パリ、エッフェル塔、セーヌ川、おしゃれー」とはタッチの異なる世界が、いかにもおいしそうなスイーツ群の向こうに広がっている印象を受けた。また、後半、ヤジッドは氷の彫刻にも才能を発揮する。

 ヤジッド役はリアド・ベライシュ、監督はセバスチャン・テュラール、脚本はセドリック・イド。

映画『パリ・ブレスト ~夢をかなえたスイーツ~』

3月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

監督:セバスチャン・テュラール 脚本セドリック・イド
出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、クリスティーヌ・シティ、パトリック・ダスマサオ、フェニックス・ブロサール、リカ・ミナモト
2023年/フランス/フランス語/110分/5.1ch/カラー/
配給:ハーク 配給協力:FLICKK 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、日本スイーツ協会
(C)DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinema

公式サイト
https://hark3.com/parisbrest/