母の過剰な思いは愛なのか、暴力なのか? 娘の心の闇を描くミステリー『毒親<ドクチン>』

 自分もすっかり、たとえば小学生や中学生の頃に習っていた先生がたの当時の年齢よりもかなり年上になってしまった。子供心に「イモだな」という教師は結構いて、たぶんその印象は正しかったのだろうとは思うが、暴力をふるう教師は論外として、「あなたのためを思って」みたいな恩着せがましい口調で説教したり、偉そうにふるまう奴も総じてイモだった。だから自分はどんなときにもこの言葉は使わない。

 この映画では、母親が「あなたのためを思って」みたいなことを言う。彼女の中に「正しい子供像」「正しい学生像」「正しい成長像」があって、それが1ミクロンでもずれると大変だ。すぐヒステリックになるから娘(主人公)のほうでも気を遣って、ほんとうは魚や牛乳が体質的に苦手なのにそれを摂って気持ち悪くなったりもする。さまざまなことが積み重なって、結果的に母娘の交流は悲惨な終わりを迎えるのだが、それ以降の、母親の言動がまた、すさまじい。

 周りが悪いんだ、私は娘のことをひたすら考えて、全身全霊で彼女を愛してきたのに、外の連中が彼女を悪い方向にけしかけた――やたらめったら喚き散らし、暴れる母親の狂気に唖然とさせられるが、では命を絶とうとする前の娘が母親をどう感じていたかというと、別に恨み100%だったわけではなく、このあたりの、娘が母に寄せる微妙な感情のひだがしっかり描かれているところこそ、この映画が持つ貴重なさわやかさである。

 監督・脚本:キム・スイン 出演:チャン・ソヒ、カン・アンナ、チェ・ソユン、ユン・ジュンウォン、オ・テギョン、チョ・ヒョンギュン。

映画『毒親<ドクチン>』

2024年4月6日(土)ポレポレ東中野ほかロードショー!

監督・脚本:キム・スイン
出演:チャン・ソヒ、カン・アンナ、チェ・ソユン、ユン・ジュンウォン、オ・テギョン、チョ・ヒョンギュン
製作:ミステリーピクチャーズ、ZOA FILMS 配給:ミステリーピクチャーズ、シグロ 宣伝:ブライトホース・フィルム
韓国/104分/DCP R15
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公式サイト
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