「外は謎の闇」、極限の状況に置かれた人間がとった行動とは? 強烈な印象を残すSFシチュエーション・スリラー『ザ・タワー』

 一瞬で壊れる日常のもろさ、その後の言動によってあぶりだされる各人の品性。観た後も深い余韻を残すとともに、「こうなった場合、自分はどう行動するだろう。ここまで生き残ることに執着できるだろうか」と自問自答せずにはいられない一作がこの『ザ・タワー』である。

 物語の舞台は、フランスのとある団地。団地の住民が基本的に「他の人のことをよく知らない」のはフランスでも例外ではないだろうし、しかも多国籍国家だ。いろんな人々が、ひとつの巨大な建物のなかにいる。ある日、いつになっても「朝」がやってこない。暗闇が去らない。窓を開けて、その暗闇に物を投げ入れると物体は消え失せてしまい、いったいどうなっているのかと身を乗り出したら最後、体が切り取られて絶命する。この時点で団地外に出る、たとえばよそに住む者の助けを求めたり、買い物に行くことは不可能だとわかる。テレビやラジオは作動せず、携帯電話も圏外。なのに電気と水道は使えるから、即座に死ぬわけではない。

 さあ、ここからはさまざまなルーツ、肌の色、言語、風習を持つ者たち大勢による生き残りへの道が始まる。「ひとりでは生きていけないし、攻撃されたときに死ぬ確率が高まる」という懸念もあるのだろう、ひとまず徒党を組む。人種ごとで一緒になったり、知り合い同士が一緒になったり、だが徒党を組んだ先に見える世界は「私たちと、それ以外(=敵)」と「その中での上下関係」。暴力的になるひともいるし、空腹のあまり他人のペットでも奪って殺して食ってしまおうというひとも出る。以降の展開はスリリングであるとともに、実にドライでもあるし、物語が描くスパンは一日とか一週間とかの短さではないのだが、「人間は意を決すれば非常に丈夫な生き物なのだ」ということもしっかり描かれていて、そこは妙にさわやかに感じられた。

映画『ザ・タワー』

4月12日(金)より公開

監督:ギョーム・ニクルー
配給:クロックワークス
2022年|製作:フランス|89分|5.1ch|シネマスコープ
(C)2022 – Unite – Les films du Worso

公式サイト
https://klockworx.com/movies/17897/