これもまた、パリの現実なのか。“暗部”を炙り出す才人、ラジ・リ監督の最新作『バティモン5 望まれざる者』

 banlieue(バンリュー)という言葉自体は20世紀の頃から知っていた。「バンリュー・ブルー」というジャズ・フェスティヴァルが催されているからだ。といっても私はフランスに行く機会が今なおなく、「どこかの地名なのだろう」と勝手に思い込んでいたのだが、違った。バンリューはフランス語で(パリ)郊外を意味する言葉で、さらに、「排除された者たちの地帯」との語源をもつということを、この映画で覚えた。

 『レ・ミゼラブル』で名を高めた気鋭、ラジ・リ監督の最新作が、この『バティモン5 望まれざる者』である。「少しも水で薄めたり砂糖を加えたりせず描くのだろう」、「こちら(観る者)の感情が揺れることは間違いないだろうな」と思いつつ観たが、果たしてその通りだった。舞台となっているのは、『レ・ミゼラブル』同様、監督のルーツであるバンリュー。アフリカ(だけではないが)にルーツを持つ人々が、狭くて粗末な団地の中で、助け合いながら、どうにか毎日の生活をやりくりし、まあそれなりに温厚なコミュニティを形成している。だが、それが「行政」には、臨時市長となったピエールには面白くない。しかも彼らの住むエリアの一角=バティモン5は再開発の予定が立っていた。行政は、彼らの本当にささやかな生活を「壊しにかかる」。とはいえこの映画は「スラムの住民」と「偉そうな行政」の対立物語の域にはとどまっていない。なかでも「アビー」「ブラズ」「ロジェ」の3キャラクターは実に濃厚に描かれており、それぞれをフィーチャーしたスピンオフ版ができたとしても不思議ではない。

 アラン・ドロンやカトリーヌ・ドヌーヴが華やかに舞う世界とは異なるフランス。「バラ色の人生」や「愛の讃歌」が描く世界とは180度異なるフランス。私はフランスに行ったことがないにもかかわらず、『バティモン5 望まれざる者』が描く世界に、ものすごくアクチュアルなものを感じた。(明らかな差別的セリフは登場しないとしても)マイノリティが貧乏くじを引く世界に、権力者の一存で家族やコミュニティなどが簡単にバラバラにされてしまう社会構造に、怒りが起こると同時に、心を引き裂かれそうになった。

映画『バティモン5 望まれざる者』

5月24日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開

監督・脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
2023年/フランス・ベルギー/シネマスコープ/105分/カラー/仏語・英語・亜語/5.1ch
原題:BATIMENT 5/字幕翻訳:宮坂愛/映倫区分G
配給:STAR CHANNEL MOVIES/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
(C) SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINEMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – 2023

公式サイト
https://block5-movie.com/