現在は東京の南青山、骨董通りで営業を続ける中華風家庭料理の店「ふーみん」にまつわる物語。1971年に神宮前でオープンして以来の歴史が丁寧に紹介されているのはもちろん、有名人(芸術家が多い)が語るエピソードの数々、納豆チャーハン、ねぎワンタン、豚肉の梅干煮など名物メニューの紹介、創設者・斉風瑞(さいふうみ)一家の肖像、ルーツである台湾への訪問など、厚みのある内容で迫る。いくつもの「章」の綴じられた本のようだ。
ところで当たり前の話だが、映画は食べ物ではない。その料理店が出すもののおいしさを、どう見る側に伝えていくか。カメラや録音のスタッフにとっては、まさに腕の見せどころだろう。その点、この作品のライティングや音響は、未体験の者を「ふーみん詣で」させるのに十分なはずだ。とくに炒め物が醸し出す「シズル感」たっぷりの響きは、実に華麗、臨場感がある。ほか、まな板の上にあるものに包丁を走らせるときの音も実にリズミカルでいい。こうしたサウンドも含めて「料理」なのだ、といいたくなる。「創造する人」=「ミュージシャン」と「味わう人」=「オーディエンス」の間にコミュニケーションが成立するという点で、料理と音楽は一緒だ。
監督は菊池久志、ナレーションは井川遥。オリジナルサウンドトラック(音楽:高木正勝)も同じく5月31日から配信されている。
映画『キッチンから花束を』
5月31日、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開
監督:菊池久志
配給:ギグリーボックス
制作:エイトピクチャーズ
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