『ダンスウィズミー』で新境地を開いた三吉彩花、『今日から俺は!!』シリーズでさらに名を高めた伊藤健太郎が快演し、さらにラサール石井、山村紅葉、笹野高史といった熟達の面々が時にユーモアも交えつつ脇を固める。物語の舞台は現代と平安時代。時空を超えた大エンタテインメント作品という印象だ。
『十二単衣を着た悪魔』というタイトルを見るなり、たぶんほとんどの方と同じように、すぐにアメリカ映画『プラダを着た悪魔』を思い出した。原作(『十二単衣を着た悪魔~源氏物語異聞』)・脚本の内館牧子も、その作品を大いに意識したらしい。そして監督の黒木瞳は“『不思議の国のアリス』みたいな感覚なのだろう”とイメージしながら世界を描いたという。さらに、作品自体の根底に流れるのは『源氏物語』である。つまりこの映画は、プラダ+アリス+源氏の世界を、どきどき、わくわくさせつつ、ミックスジュースのようにスンナリ飲ませてしまう、じつにゴージャスな一作なのだ。

現代→過去→現代という展開になるのはタイムトリップものの常であろうが、その“過去”が明治や徳川の頃ではなくて平安時代というのが、もう壮大なファンタジーだ。軽く1200年ぐらい前のことで、当然ながら今生きている誰も当時を知るわけがない。これが万延だの慶応だのとなると、この2020年においても、いささか残滓のようなものが残っていて、ひいひいひいおじいちゃんぐらいがこの時期にはまだ生きていたはずだという向きもいらっしゃることだろう。だが平安時代なのだからずれている。重ならない。でもそのずれ、重ならなさが激しくなりすぎると、今度は観客にとってはあまりにも向こう岸の出来事になってしまう。そこで接着剤的役割を絶妙に果たすのが、伊藤健太郎の演じる伊藤雷(平安名は雷鳴)がタイムスリップの際に一緒に持ってきてしまったイベント「『源氏物語』と疾患展」のパンフレットだ。

電気も医療品もなかった人生50年未満の時代、みんながこんなに懸命に生きている。それは現代からやってきた雷にとっては当初、いささか拙く、不器用で、こっけいなものだったかもしれない。だが雷の気持ちはやがて同情をへて共感、尊敬へと昇華していく。現代の人間と平安の人間の間の壁がとれて、心を通わせてゆく。その過程も強く印象に残った。

共演者では山村紅葉の存在感に、またしても唸らされた。ぼくは先日、明治座の『氷川きよし特別公演』で、ご本人の名演技を目の当たりにしたのだが、映画でも舞台でも本当にブレないというか、ワン&オンリーの太いものをスッと差し出してくる。山村紅葉の、このゆるぎなさに表敬する。

『十二単衣を着た悪魔』
11月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開!

<キャスト>
伊藤健太郎 三吉彩花
伊藤沙莉 田中偉登 沖門和玖 MIO YAE 手塚真生 / 細田佳央太 LiLiCo 村井良大 兼近大樹(EXIT) 戸田菜穂 ラサール石井 伊勢谷友介 / 山村紅葉 笹野高史
<スタッフ>
監督:黒木瞳 内館牧子「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」(幻冬舎文庫)
脚本:多和田久美
音楽:山下康介
雅楽監修:東儀秀樹
主題歌:OKAMOTO’S 「History」(Sony Music Labels)
制作・配給:キノフィルムズ
制作:木下グループ
(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
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