「まったく、どうかしているぜ」と、ふと声が漏れてしまうこと間違いなしのラインナップといっていいだろう。夏の締めくくりに咲き乱れる恒例の「ホラー秘宝まつり」、その2024年版が8月30日から公開される。なんと全作とも日本初公開。アナログならではの、いや、アナログだからこそのraw感、そして手作り感、さらに容赦なさが光る作品ばかり。怖さ、不気味さと共に、しっかりエンタテインメント性も発揮されているところも大きな見どころだ。映画祭側が骨子にあげている“最笑(小)・最狂(強)ラインナップ”というフレーズは言い得て妙である。
1973年のアメリカ映画『メサイア・オブ・デッド』(監督・脚本:ウィラード・ハイク)は、あの『ゾンビ』(78年)の先駆的一作という声もある内容。父親と手紙をやりとりしていた娘が実質的な主人公だが、その父の手紙の文章がどんどん乱れて、支離滅裂になっていき……。父はどうなってしまったのだろうと、ある小さな町に迷い込む娘だが、この町は雰囲気といい、そこに住む人々といい、「不気味」のひとこと。狂気に満ちた町並みの中で、果たして娘は正気を保っていられるのだろうか。映画館のシーンもスリルたっぷりだし、ここに出てくるゾンビは、『ゾンビ』のゾンビほどあか抜けてもいないし、ドラマティックな感じでもないので、逆に、より身近にいそうで怖い。
1972年のイタリア映画『デリリウム』はレナート・ポルセッリ(ラルフ・ブラウン)が製作・監督・脚本を担当。ジャンフランコ・レヴェルベリによるジャズ・ファンク調の音楽がひじょうにスタイリッシュで、90年代の、いわゆる「渋谷系ムーブメント」で話題にのぼらなかったのが不思議なほどだ。そして内容は、なんとも、ゆがんだ形でエロティックであり、サスペンス風味もあふれる。主人公の犯罪心理学者はその筋ではひじょうに大御所なのだが、男性としての機能に難がある。そのコンプレックスを「とある行為」にぶつける彼と、それでも彼を愛そうとする妻の動き、この、ふたりの「愛の形」も猛烈に歪んでいて、だが、音楽は先に触れたようにおしゃれなので、なんというか、カオスを飲み干しているような気分になる。
1976年の『悪魔のしたたり』(監督・脚本:ジョエル・M・リード)は、現実とフィクションをあべこべにしたような作品といえばいいか。奇術のような、軽いタッチでの、娯楽風味もまじえた拷問殺人。だがそれは「リアル」(もちろん映画の中での)であり、次第に描写は激化して、観ているこちらにも痛みをもたらす。なんというのだろう、「共感性羞恥」という言葉にならっていえば、「共感性苦痛」を持っている人であればあるほど見る前に心の準備が必要だろう。ちなみにこれは、『悪魔の毒々モンスター』(84年)シリーズの制作で知られる映画会社トロマ・エンターテインメントの初期作品でもある。そのブレなさが美しい。おそらくニューヨーク・ロケによる物語なのだが、建国200年のアメリカで、こんな映画が公開されていたとは痛快ではないか。
映画祭『ホラー秘宝まつり 2024』
8月30日より下記劇場にて順次開催
東京:キネカ大森、アップリンク吉祥寺
札幌:サツゲキ/栃木:宇都宮ヒカリ座/千葉:キネマ旬報シアター/名古屋:シネマスコーレ/新潟:高田世界館/京都:アップリンク京都/大阪:シアターセブン/神戸:CinemaKOBE/広島:サロンシネマ1・2/沖縄:桜坂劇場 ほか
■上映作品:
①メサイア・オブ・デッド(73)
②デリリウム(72)
③悪魔のしたたり(76)
提供・配給:キングレコード
宣伝:ブラウニー
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