「今の時代に観るべき、壮大な歴史スペクタクル」のフレーズに偽りなし。『シサム』

 私は北海道の北部、いわゆる道北地方の生まれで、小学校の頃には郷土の歴史を学ぶ時間もあったし、幼少の頃から「音威子府」や「おさしま」にも年数回のペースで行っていた。先住民の住む地域にも何度か足を運び、彼らの、たとえば工芸の、実にセンシティヴな色合いや感触に心を動かされてきた。和人にとってはひとつの大きな成果であったろう、大賑わいの観光地「五稜郭」を訪れたこともある。個人的にはちっとも誇らしいものとも思えず、パネルに記されたその成り立ちなどもしっかり読んだところで、鼻白むばかりであったが。

 この映画は、先住民「アイヌ」と、松前藩の「和人」の歴史と共に心の通い合いを描いた物語と言えるのではないか。もちろん、攻め込んでこられた者と攻め込んできた者、というとちょっとニュアンスが異なるかもしれないけれど、いわゆる「交易」の上での齟齬も描かれる。しかし、主体となるのは歩み寄り、理解、共感である。映画としての着地点をひじょうに注意深く設定しながら、スケールの大きなドラマをつくりあげているという印象を受けた。

 主演の和人(武家の若者)には、寛一郎が扮する。そしてアイヌ側に扮した役者では、複雑な事情を抱えたキャラクターを演じるサヘル・ローズが異彩を放つ。セリフには日本語もアイヌ語も登場するが、現在の日本人にとってひじょうに発音が難しいであろうアイヌ語を、日本語に置き換えていないところにも好感が持てた。監督は中尾浩之、脚本は尾崎将也。

映画『シサム』

9月13日(金)全国公開

キャスト
寛一郎/三浦貴大 和田正人 ほか

スタッフ
監督:中尾浩之 脚本:尾崎将也
配給:NAKACHIKA PICTURES
(C)「シサム」製作委員会

公式サイト
https://sisam-movie.jp/